日本の気候変動対策を加速させるにはどうすればいいのか。
8月9日、全国から約80人の若者が集まり、気候変動対策を協議する「日本版気候若者会議2023」の第1回が都内で開催された。
事務局の室橋祐貴さんは「日本でなぜ脱炭素化が順調に進んでいないのか、現場のリアルを重視して学び、2020年代までに実現すべきことを考えていきたい。また、提言をするだけでなく、キャンペーンを行い世論に広げる仕掛けも行っていく予定」と会議の趣旨を説明した。
この日は中学生、高校生、大学生と30代以下の社会人が集まり、専門家らの講演で気候変動の現状や基礎を学び、参加者同士で語り合った。
日本版気候若者会議とは?
2021年から開催され、今回で3回目となる「日本版気候若者会議」。今回は「電力」「産業」「生物多様性」「国民との対話」のテーマに分かれ、10人ずつほどのグループごとに提言をまとめる。本会で生物多様性のテーマが取り上げられるのは初めてだ。
10月まで合計7回開かれる会合の中で、専門家からのインプットの他、企業や政治家との話し合いを積み重ねて議論を深めていく。アドバイザリーボードには、環境政策、民主主義、メディア、デジタル、生物多様性など様々な視点の専門家らが揃った。
「日本版気候若者会議」のモデルとなっているのは、欧州などで注目されている「気候市民会議」だ。
社会システム全体の転換が求められる気候変動対策に対応するためには、現状の民主主義の仕組み自体もアップデートが必要だとされている。九州大学の岡﨑晴輝教授は、「選挙制は議員の属性が偏りやすく、結局多数決で決められてしまうなどといった課題がある」と指摘。
気候市民会議は、無作為に選ばれた市民が気候変動対策を議論し政策に意見することで、民主主義を補う役割が期待されている。日本でも札幌市や川崎市で開催されているが、国主導の開催には至っていない。
事務局の西田吉蔵さんは「ただ温室効果ガス削減の目標引き上げを訴えるだけでなく、具体的にどうするかも考えた上で提言することが大事だ。フランスやイギリスのように、若者だけでなく、国主導の気候市民会議が行われることを目指したい」と話した。
民主主義、科学、政策を学び、語り合った
岡﨑教授は「くじ引きによる『市民院』とは?」をテーマに講演を行い、民主主義の現状や気候市民会議の意義・課題について参加者と語り合った。
「抽選制議院という形ではなかったとしても、民主主義のあり方を考えなければ気候変動対策は進まないと思っています」(岡﨑教授)
気候変動に詳しい東京大学未来ビジョン研究センター の江守正多教授は、地球温暖化の仕組みと、最新の国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書について解説し、人間活動によって気候変動が起こっていることや、気候変動対策のスピードが遅すぎることなどを科学的に説明した。
「よく気候変動対策って『何時代に戻ったらいいですか?』と聞かれるんですが、違います。次の時代にいくんです。石器時代が終わったのは、石がなくなったからではありません。人類は化石燃料文明を卒業しようとしています」(江守教授)
また、環境省の地球環境局総務課長・井上和也さんは政府が行っている気候変動対策について、資源エネルギー庁 長官官房総務課 戦略企画室 総括補佐の疋田正彦さんは第6次エネルギー基本計画とGX基本方針についてそれぞれ解説した。
大人も「一緒にやろうよ」って言いたい
気候危機や生物多様性に関心があって会議に参加したという高校生は、「学校のみんなで気候変動について話し合う機会もありましたが、みんなどこか他人事で。未来を担う世代としてどうなのかなと思っていました」と参加のきっかけを語った。
「大人にも一緒にやろうよと言いたいですし、協力してほしいなと思います。会議には私と同じ高校生だけでなく、大学生や社会人もいて、それぞれいろいろな思いを持っていると知って、これからもっと勉強していきたいなと思いました」
これまでにも環境団体で活動をしてきたという大学生の参加者は、「民主主義の視点で気候変動を考えたことがありませんでした。これまでの活動で、データや正論だけではうまくいかないなと思っていたので、大事な視点だなと思いました」と驚きを語った。
「私は今回、生物多様性のグループを選びました。生物多様性を保全するための政策で気候変動が緩和されることはあっても、気候変動を緩和するための政策で生物多様性が破壊されてしまうことはよくあるとデータが出ているのに、生物多様性が軽視されすぎていると思ったからです。今後の会議が楽しみです」
今後の会議の様子はYouTubeでも公開され、誰でも見ることができる。詳しくは日本気候若者会議のホームページへ。