「頭がいいはずのえらい人が、失言をするのはなぜだろう?」
「国や企業がどうして誰かを傷つけるようなことをするのだろう?」
それは、今の日本の意思決定層が、日々アップデートされていく世界の常識や、未来の主役である若い人の感覚を理解できていないからではないか?
そんな仮説のもと、7月19日に開催されたのが、自分よりも若い人から考え方を学ぶ「リバースメンター」の仕組みを広げるためのカンファレンス「Z特区」。
この日は6つのセッションに18人のZ世代のリーダーが登壇し、会場には約120人の参加者が集まった。
そこで見えた「未来」とは?イベントの様子を一部お届けする。
出し抜いてやろうとは「思いません」
「日々進化していくテクノロジー、正直ついていけないし、疲れませんか?」。スタートアップとテクノロジーがテーマのセッションは、そんな問いかけから始まった。
ブロックチェーン技術を用いて、イベント券やグッズ引換券などの「モノや権利」を売買するマーケットプレイス「TicketMe」を運営するチケミーの宮下大佑さんは、技術に対する抵抗感や恐怖は「インターフェースが多様化する中で、自己と周りとの境界線がなくなりつつあること」からくるのではないかと指摘した。
「僕たちはWeb3.0(ブロックチェーンなどの技術による分散型インターネット)の領域にいますが、他者との緩やかな繋がりの中でなめらかにつながる関係性を構築していくことに美しさを感じています。なので、恐怖を感じるというよりは、世界は進むべき方向に進んでいるなと思います」
一方で、先進技術だけあればいいのかというと、そうでもない。機械学習とその応用技術の開発を専門にする研究者、矢倉大夢さんは、「ウガンダでのプロジェクトで、社会のあり方の中でテクノロジーをどう使うのかを考えさせられました」と実体験をもとに話した。
「ウガンダでは医療者向けの教育支援に需要がありますが、携帯回線の値段が高いので動画を転送できないんです。先端テクノロジーがあれば全て解決できるかというとそうではないと実感しました。一方で、例えば新生児用の縦3段のベッドを3Dプリンタで作って使っちゃうみたいな柔軟性はある。この柔軟性をきちんと持っておかないと、いつの間にかテクノロジーで他の国に追い抜かされるんだなと痛感しました」
では、テクノロジーの進化だけでは完結しない中で、日本で最初に向き合うべき課題は何か。銭湯「小杉湯」の事業責任者を務める関根江里子さんは、「デジタルネイティブでテクノロジーがあって当たり前の若者たちの『分断』」だと指摘した。
「仕事の人とはslackで、友人はSNSでいつでも繋がっているけれど、社会で起きていることは他人事。社会は遠いけれど、知っている人は近すぎる。間が分断されてしまっています。テクノロジーで世界中の誰とでもつながれる一方で、知っている顔が町にいる安心感や自分の暮らしが街の中にある、という中距離な関係性が失われているんだと思います。この中距離な関係性こそ『心の健康を支えるベース』だと思っていて、その役割を果たすのが銭湯なんだと考えています」
これからは「筋トレ」が求められる時代
エンタメのセッションに登場したのは、ヒット作を生み出し続けている3人のクリエイターたち。「Z世代の欲望を紐解く」をテーマにトークが繰り広げられた。
「ここ数年は、当たり前にみんな絶望していますよね」
そう話すのは、2015年から「ぼくのりりっくのぼうよみ」として音楽活動を始め、現在はバンドのDios(ディオス)などで活動するたなかさん。
「デフォルトとしてある絶望に、僕はもう結構飽きてきちゃってて。『何者かになろう』が瓦解して、『やりたいことで生きていく』にもみんな割と飽きてきている。次に来るZ世代の欲望は『筋トレ』だと思っています」
「筋トレ」とは、「自分の手が届く範囲の世界をいかにコントロールして、積み上げていくか」だという。
「他人と比べて優れているから嬉しいんじゃなくて、昨日の自分より今日の自分の方がちょっといい。これって最高だと思っていて。これまでの『自由』な風潮から、縛られることで変わっていくことを楽しむように変わっていくんじゃないかなと」
クリエイターとして、どうやって時代の空気感をいち早く掴んでいるのか。「ショジョ恋。-処女のしょう子さん-」(主婦と生活社)などで知られる漫画家の山科ティナさんは、「音楽が一番空気感を掴むのが早いと思っています」と話す。
「根本的な欲望に応えている作品の方がずっと残るし、たくさんの人に届くと思います。世代で違うのは、その表現方法や届け方なのかなと」
では、実際に作品を制作する際に「外さない」ようにするために何が必要か。「ずっと真夜中でいいのに。」のMVや短編映画「純猥談」などヒット作を生み出してきた映像監督のYPさんは、「界隈にさすことを意識している」そうだ。
「例えば『長いこと付き合ってて別れたことがある界隈』とか、シチュエーションや人の心の状態をカテゴリー化して届けることを考えています。よくペルソナを作って誰か一人を想定することがあると思うんですけど、今は(個人から広げて)『界隈』ぐらいの捉え方をしないと共感性を生みにくい時代になっていると思います」
「共感消費」は終わったし、ストーリーだけじゃ売れない
マーケティングのセッションでは、「若者がお金を払いたくなるものは、これからどう変わっていく?」をテーマに3人の起業家が語り合った。
「共感消費はもう終わっているんです」と話すのは、「水星」代表取締役CEOで、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さん。
「新型コロナの影響もあって、コンテンツ量が激増したのと、D2Cブームでインフルエンサーが誰でもOEMでブランドを立ち上げられるようになってストーリーが乱立しすぎました」
今では「情報をなるべく抑制している」と龍崎さんはいう。「知らなくていい人にいかに知らないでいてもらうかが現代に求められている戦略だと思います。お茶会の時に『気になってるホテルがあって…』みたいに伝わるのが理想です」
アンダーウェアブランドを展開する「ONE NOVA」代表取締役の高山泰歌さんも、「エシカルで(商品の)ストーリーがあるだけじゃ売れなかった」と頷く。
「最初は環境問題に配慮したエシカルなパンツを作っていましたが、『ユニクロと何が違うの?』と言われてもストーリーぐらいしかなく、売れませんでした。そこから、例えば『くい込みが痛い』とか、そういったパンツの課題を全部解決することを目指し始めました。いくらエコでも、誰かが欲しいものじゃないとただのゴミになってしまいますから」
では、企業はどのようにコミュニケーションを取ればいいのか。アートのインフラ事業を行う「HARTi」代表取締役CEOの吉田勇也さんは事例として、ゲーム「フォートナイト」のCMを紹介した。
このCMは、かつてApple社がMacintosh(マッキントッシュ)を発売した際に、当時コンピューター界で圧倒的な存在感を誇っていたIBMに対して打ち出したCMを、フォートナイトが「対Apple社」の内容で「リバイバル」させたもの。
「フォートナイトがAppleの手数料に異議申し立てする意味もありますが、何より親世代を巻き込んだのがすごいと思います。1984年に生でAppleのCMを見ていた親世代は、フォートナイトに対して嫌悪感を抱いていた人も多かったと思いますが、このCMで一気に印象が変わったそうです。新しいものを受け入れていこうというムーブメントを作り出したいい事例だと思います」
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この日は他にも政治や教育、サステナビリティなどのテーマでセッションが行われた。
主催のThe Breakthrough Company GO・三浦崇宏さんは「Z特区は『えらい人の話を若者が聞く』というよく見るカンファレンスの構造を、完全に逆転させる取り組みです。これからどんどん広げていきたい」と語った。
「みなさん、ここが未来です」