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「LGBT理解増進法案」の修正案の内容に抗議する緊急集会が6月14日夜、東京都の参議院議員会館前で開かれた。
この法案の最大の問題点は、「全ての国民の安心に留意する指針を、政府が策定する」という条文だ。有識者は「国が、自治体のパートナーシップ制度や学校でのLGBTQに関する教育などを抑制できるようになる」と指摘する。
この「全ての国民の安心」という言葉は、「“⼼が⼥”だと⾔っただけで⼥湯に⼊れるようになる」「トランスジェンダーの人権が認められると、女性の人権が脅かされる」などといった誤った認識に基づく、トランスジェンダーバッシングが背景にある。
そんな中、女性の権利回復に向けて活動するフェミニストも抗議集会に参加し、「性暴力を止めるために必要なのは、トランスジェンダーの人たちに対する差別ではなく、性犯罪に関する刑法改正ではないでしょうか」と声を上げた。
LGBT理解増進法の解説はこちらから>>「LGBT理解増進ではなく、理解”抑制”法案」。パートナーシップ制度の抑制も意味する、その問題点とは?
◆「LGBT理解増進法ではなく、性犯罪に関する刑法改正が必要だ」
LGBT理解増進法案は、2月の前首相秘書官の差別発言を受け、LGBTQ当事者への差別を禁止するために、成立が求められてきた。だが「差別は許されない」が「不当な差別はあってはならない」に変更されるなど、後退が繰り返された。
最終的に自民・公明案に、日本維新の会、国民民主両党の主張を取り入れ修正した法案は、「政府や自治体、学校などで『多数派が“安心“できる範囲』でしか理解を広げない」という解釈が可能になる。それは国が、パートナーシップ制度やプライドパレードの開催など、LGBTQに関するあらゆる取り組みを抑制できるという、「理解増進」とは真逆の性質を意味する。東京新聞によると、16日に成立する公算が大きいという。
どうして『多数派の“安心“』という言葉が盛り込まれたのか。背景の1つに、「トランスジェンダーの人権が認められると、男性が女性トイレや女湯にはいり、女性の人権が脅かされる」との言説があり、一部の保守系メディアもその主張を繰り返してきた。 また、トランスヘイトの書かれたビラ配りが日本中で行われ、公衆トイレにも貼られている。
『#なんでないのプロジェクト』代表、『Woman7』共同代表の福田和子さんは、「フェミニストとして、みなさんとともに声を上げたいと思い、この場にやってまいりました」と切り出した。
福田さんは「今必要なのは、トランスジェンダーの人たちに対する差別でしょうか。絶対に違うと思います。必要なのは、審議されている性犯罪に関する刑法改正の議論ではないでしょうか」と主張。
性犯罪規定を見直す刑法改正案が現在、参議院で審議されている。改正案には、「不同意性交等罪」の創設や「性交同意年齢」の引き上げ、公訴時効の延長などが盛り込まれており、成立すれば性犯罪をめぐる従来の法規制からの大幅な変更となる。
「本当に性暴力を防ぎたいと思うのならば、このLGBT理解増進法案ではなくて、性犯罪の刑法改正に尽力すべき、みんなで戦うべきだと私は思います。女性の人権と言いながら、その裏で誰かの人権が侵害されて良いわけがないんです」
「トランスジェンダーの方たちこそ、性暴力に脆弱という現状もあります。それなのになぜ、性暴力を止めたいという気持ちでトランスの方たちに刃が向くのか。止めなければならないと、フェミニストの1人として、責任を持って、心から思います」
「LGBT理解増進法案」への抗議集会は6月15日午後7時にも、新宿駅西口広場で行われる。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>