100年に1回レベルの雨量の地域も。日本列島を襲う「極端な大雨」台風2号でも再び。地球温暖化で降水量が増える理由とは?

毎年のように起こる大雨災害に、地球温暖化はどれくらい関係しているのでしょうか。過去の例や研究を紐解きます。
冠水した道路を自転車で移動する人たち=6月3日午前、埼玉県越谷市
冠水した道路を自転車で移動する人たち=6月3日午前、埼玉県越谷市
時事通信

極端な大雨の増加 温暖化との関係は?

6月1日~3日、台風2号と梅雨前線の影響で大雨になりました。関東甲信から東海・近畿にかけて23地点で、24時間に降った雨の量が観測史上1位の記録を更新。

防災科学技術研究所の分析によれば、100年に一度と、滅多にないレベルの「まれな大雨」だった地点もあります。被害に遭われた方にお見舞い申し上げるとともに、1日も早く心の安寧が訪れますことを願っています。

6月2日23時までの24時間降水量
6月2日23時までの24時間降水量
ウェザーマップ提供

近年は極端な大雨が増えており、地球温暖化の影響に関する研究も進んでいます。過去の例や研究から、温暖化と大雨の関係について紹介します。

九州では降水量が約7%増えたところも

梅雨期の大雨といえば、西日本です。大陸からの湿った空気がダイレクトに流れ込みやすい西日本では、梅雨時に最も雨が多くなります。特に影響を受けやすいのが九州西部で、人為的な温暖化によって7月の降水量が約7%増えたことがわかっています。(1981年~2020年の平均)(*1)

このような「降水量の増加」には、地球温暖化が影響しています。気温が高いほど空気が含むことのできる水蒸気量が増えるという一般的な性質があるため、気温が上がればその分大雨につながりやすくなります。気温が上がる分バケツが大きくなるようなイメージです。

大雨の影響で冠水した熊本県阿蘇市内=2012年07月12日[時事通信=福岡市消防局提供]
大雨の影響で冠水した熊本県阿蘇市内=2012年07月12日[時事通信=福岡市消防局提供]
時事通信=福岡市消防局提供

関東甲信でも降水量が10%増加

梅雨期に大雨になりやすい西日本に対して、関東は9~10月の台風シーズンに雨量が増えやすい地域です。2019年に箱根で1000ミリという、とてつもない豪雨をもたらした台風19号についても、温暖化の影響を推定する研究がいくつも出てきています。

台風19号による関東甲信の降水量は、1850年以降、日本周辺の気温が1.4度上昇したことによって、13.6%増加したことがわかりました(*2)。1980年以降の気温上昇(1度)に限ってみても10.9%の増加です。

また、この降水量の増加によって、長野県千曲川のピーク流量は約22%増加していたこともわかりました(*3)。

イギリスの研究論文では、台風19号による損害のうち、どの程度が人為的な地球温暖化の影響によるものかを試算しているのですが、控えめに試算しても、5000億円程度が人為的な地球温暖化の影響による被害だとしています(*4)。

台風19号の影響で増水した多摩川=2019年10月12日
台風19号の影響で増水した多摩川=2019年10月12日
時事通信

再び台風19号クラスの台風が襲来したら?

今よりもさらに温暖化が進んだ未来に、再び台風19号並みの台風が襲ってきたら…?

環境省が実施したシミュレーションでは、荒川、利根川、多摩川などで、ピーク流量が現在より更に平均15%~29%増加する結果となりました(産業革命以降で、世界の平均気温が2℃~4℃上昇した想定)。

台風19号では約100名の方が亡くなるなど大きな被害が出てしまいましたが、温暖化が進むと、さらに大きな被害が出る可能性があります。

台風19号の影響で洪水の被害を受けた長野県=2019年10月12日
台風19号の影響で洪水の被害を受けた長野県=2019年10月12日
時事通信=AFP

気候変動はどこか遠い未来の話だと思っている人もいるかもしれません。しかし、既に地球温暖化の影響は現れていることが研究でわかっています。

堤防などのインフラを整備したり、防災知識を身につけたりすることももちろん大切ですが、温室効果ガスを削減し地球温暖化を緩和することが、将来の大雨リスクを減らすことにもつながります。

だからこそ、2015年のパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが合意されているのです。

<参考文献>
(*1) Kawase, H., Imada, Y., Sasaki, H.,Nakaegawa, T., Murata, A., Nosaka, M.,& Takayabu, I. (2019). Contribution ofhistorical global warming to local‐scaleheavy precipitation in western Japanestimated by large ensemblehigh‐resolution simulations.Journal ofGeophysical Research: Atmospheres,124, 6093–6103. https://doi.org/10.1029/2018JD030155

(*2) 気象研究所プレスリリース(2020年12月24日)
近年の気温上昇が令和元年東日本台風の大雨に与えた影響
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R02/021224-1/press_release021224-1.pdf

(*3) Yasuo Nihei, Koyo Oota, Hiroaki Kawase, Takahiro Sayama, Eiichi Nakakita, Takehiko Ito, Jin Kashiwada. (2023). Assessment of climate change impacts on river flooding due to Typhoon Hagibis in 2019 using nonglobal warming experiments. Journal of Flood Risk Management, early view, https://doi.org/10.1111/jfr3.12919
※千曲川のピーク流量については、論文提出時にデータを精査したことにより、当初報道より数値が変わっている。

(*4) Li, S., Otto, F. (2022). The role of human-induced climate change in heavy rainfall events such as the one associated with Typhoon Hagibis. Climatic Change 172, 7. https://doi.org/10.1007/s10584-022-03344-9

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