「法律上の性別が同じふたりの結婚が認められないのは憲法違反だ」として、九州在住の3組の同性カップルが国を訴えていた裁判で、福岡地裁の上田洋幸裁判長は6月8日、個人の尊厳に立脚して法を制定することを求める憲法24条2項に「違反する状態」との判断を示した。
この訴訟は2019年に全国5地域で始まり、今回の福岡地裁判決で1次訴訟の地裁判決が出揃い、違憲が4件、合憲が1件となった。5地域の中で最後の判決となった福岡地裁は、なぜ「違憲判決」を言い渡したのか。判決要旨を全文掲載する。
福岡地裁の判決要旨、内容は?
令和5年6月8日判決言渡
令和元年(ワ)第2827号(第1事件)、令和3年(ワ)第447号(第2事件)
「結婚の自由をすべての人に」訴訟事件
原告 男性4名、女性2名
被告 国
【判決骨子】
1 同性カップルの婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する規定(以下「本件諸規定」という。)は、憲法24条1項及び憲法13条に違反しない。
2 本件諸規定の区別取扱いについては合理的な根拠が存するものと認められるから、本件諸規定が立法裁量の範囲を超えるものとはいえず、本件諸規定は憲法14条1項に違反しない。
3 同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定は、個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にある。しかし、制度設計の多様性、社会の変化の時期に照らせば、本件諸規定が立法府たる国会の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえず、本件諸規定は、憲法24条2項に違反しない。
4 国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を講じないことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。
【判決要旨】
1 事案の概要
本件は、同性の者との婚姻届を提出したが受理されなかった原告らが、同性同士の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定(以下「本件諸規定」という。)は、同性同士の婚姻が認められない法的状態を生じさせており、憲法13条、14条1項及び24条に違反するにも関わらず、被告が必要な立法措置を怠ったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して、慰謝料等の支払を求める事案である。
2 本件諸規定が憲法24条1項に違反するか
(1) 憲法24条1項の「両性」及び「夫婦」という文言からは、同条が男女の婚姻を想定しているものと解さざるを得ないし、その制定過程を検討しても、憲法24条1項の制定時において同性婚は想定されていなかったものと認められ、当該規定は同性婚を禁止する趣旨であるとはいえないものの、同条でいう「婚姻」は異性間の婚姻を指し、同性婚を含むものではないと解するのが相当である。
(2) 婚姻についての社会通念や国民の意識、価値観は変遷し得るものであり、同性婚が異性婚と異ならない実態と国民の社会的承認がある場合には、同性婚は「婚姻」に含まれると解する余地があるといえ、諸外国において同性婚を法制度化している国が相当数あり、わが国においても多くの地方自治体においてパートナーシップ制度が導入される等同性婚について異性婚と同じく法的保護を与えようという動きや同性愛に対する偏見を除去しようとする動きがあることが認められる。しかし、我が国における世論調査の結果等によれば、同性婚に対する価値観の対立が存在し、このような反対の意見の中には婚姻は依然として男女間の人的結合であるとのこれまでの伝統的な理解に基づくものと考えられるのであって、婚姻についての社会通念や価値観が変遷しつつあるとは言い得るものの、同性婚が異性婚と変わらない社会的承認が得られているとまでは認め難いところである。
したがって、同性婚を憲法24条1項の「婚姻」に含むと解釈することは少なくとも現時点においては困難であり、本件諸規定は憲法24条1項に違反するということはできない。
3 本件諸規定は憲法13条に違反するか
婚姻は、相手方又は行政機関等との間で、有効となる種々の権利義務を発生させるものであり、婚姻の有無ひいては婚姻制度を利用できるか否かは、その者の権利義務に影響を与えるものである。我が国では、家族を基本的な生活の単位として様々な制度が組み立てられており、公的な権利関係に留まらず、私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在する(例えば、医療における家族への説明や同意権、不動産購入、賃貸借又は保険等の各種契約の審査における家族状況の確認、家族を共同名義人や保険等の便益の受取人に指定できること、職場の異動等における家族の状況への配慮、同じ墓の利用の可否等の冠婚葬祭への参加)。このような公的にもたらされるわけではない事実上の利益も、公証の効果として一律に発生するものであり、これを発生させる基本的な単位であるはずの婚姻ができず、その効果を自らの意思で発生させられないことは看過しがたい不利益である(婚姻の効果である公証により受けられるようになる社会生活における各種便益を総称して「公証の利益」という。)。以上に加えて、国民の意識における婚姻の重要性も併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益と認められる。
しかしながら、婚姻とは各種法律によりその要件が定められ、これを満たしたときに一律に権利義務が発生する法律上の制度であり、当事者の意思のみによってその要件や効果を決定できるものではなく、婚姻を基礎とした家族の形成も当事者の意思によりその要件や効果が全て定まるものではない。このことは、婚姻自体が国家によって一定の関係に権利義務を発生させる制度であることからの当然の帰結であって、同性愛者の婚姻の自由や婚姻による家族の形成という人格的自律権が憲法13条によって保障されている憲法上の権利とまで解することはできない。
したがって本件諸規定は憲法13条に違反しない。
4 本件諸規定は憲法14条1項に反するか
(1) 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解される。
そして、憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的に国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものであるから、婚姻及び家族に関する事項についての区別取扱いについては、立法府に与えられた上記の裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解される。
(2) 本件諸規定の下では同性間の婚姻は認められておらず、その結果、同性愛者は婚姻制度を利用することができないのであるから、本件諸規定は、同性愛者と異性愛者の間において性的指向に基づく区別取扱いをするものと解される。このような本人にとって自ら選択ないし修正の余地のない事柄をもって婚姻の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては慎重に検討することが必要である。
本件諸規定の下では原告らは婚姻をすることができない結果、相手方又は行政機関等との間で、生涯有効となる種々の権利義務を発生させることができず、私的な関係でも公証の利益を得られないものであるところ、このような効果は婚姻によってしか発生させることができず、国民の意識における婚姻の重要性も併せ鑑みれば、原告らは婚姻制度を利用できずこれらを享受する機会を得られないことで重大な不利益を被っているといえる。
(3) しかしながら、憲法24条1項にいう「婚姻」は異性間の婚姻を指し、同条2項においては、異性間の婚姻についての立法を要請しているものと解することができる。そして、明治民法で初めて定められた婚姻制度の目的は、婚姻の法的効果や戸籍制度との関係上、その要件を明確にする必要があるところ、その範囲を生物学的に生殖可能な組合せに限定することで、国が一対の男女(夫婦)の間の生殖とその子の養育を保護することにあったと認められる。このような目的は現在においても重要なものであるし、婚姻は男女によるものであるという当時の社会通念もまた、変遷しつつあるものの、現在においてもなお失われているということはできないことは既に述べたとおりである。そうすると、憲法24条2項の異性婚の立法の要請に従って定められた本件諸規定は憲法のこうした要請に基づくものということができるから、本件諸規定の区別取扱いについては合理的な根拠が存するものと認められる。
したがって、本件諸規定が立法裁量の範囲を超えるものとして、憲法14条1項に違反するとはいえない。
5 本件諸規定は憲法24条2項に反するか
(1) 憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものである。そうすると、本件諸規定が憲法24条2項にも適合するものとして是認されるか否かは、当該規定の趣旨や同規定に係る制度を採用することによる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量を超えるものと見ざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。
同性カップルの人的結合に関する事項は、同性間の永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む意思を婚姻及び家族に関する諸規定に照らしてどのように扱うべきかという問題であるから、同条2項の「婚姻及び家族に関するその他の事項」に該当するものということができる。そして、憲法24条の根底にあった理念の一つは、個人の尊厳であり、これは異性愛者であっても同性愛者であっても変わりなく尊重されるべきものであるから、同性カップルに関する事項についても、憲法24条2項の裁量の限界にも画されると解するべきである。
(2) 婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきである。特に、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益や実質的平等は、その内容として多様なものが考えられ、それらの実現の在り方は、その時々における社会的条件、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決められるべきものである。
婚姻は家族の単位の1つであり、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、公証する制度は、基本的には現行法上婚姻制度のみであるところ、同性カップルが婚姻制度を利用できず、公証の利益も得られないことは、同性カップルを法的に家族として承認しないことを意味するものである。婚姻制度を利用できるか否かはその者の生涯にわたって影響を及ぼす事項であり、国民の意識における婚姻の重要性も併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰と婚姻して家族を形成するかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であると認められるところ、原告らが婚姻制度を利用できない不利益は憲法13条に反するとまでは言えないものの、上記人格的利益を侵害されている事態に至っているといえ個人の尊厳に照らして到底看過することができないものである。
(3) 本件諸規定を含む婚姻制度の目的には婚姻相手との共同生活の保護にもあったものと認められ、近時の未婚の者に対する意識調査も踏まえると、婚姻制度の目的において、婚姻相手との共同生活の保護という側面が強くなってきていると認められる。加えて、今日、婚姻件数、婚姻率、合計特殊出生率及び子のいる世帯の割合は本件諸規定の立法時に比べて大きく低下しており、婚姻は全ての者が行うものではなく、各人が、生涯を共に過ごす者を選び、公認された家族を作るという人生における自己決定の尊重と保護という側面が強くなってきているといえ、婚姻及び家族の実態やその在り方に対する国民の意識が変遷しているということができる。
婚姻は男女によるものという社会通念は現在においてなお失われていないものの、今日変わりつつある。すなわち、本件諸規定の立法過程に影響を与えた諸外国の状況として、家族の在り方及び前記知見の変化により同性愛を国家的に認める動きが生じ、平成12年以降同性婚の制度を導入する国は増加する状況にあるし、我が国にも影響を与えた同性愛者を精神病として病理化する知見は、今日では誤りであったことが明白となっている。国際連合は、性的指向に基づく差別は禁止されていることを決議し、自由権規約委員会及び社会権規約委員会から、我が国に対しても、同性カップルの権利についての懸念と勧告が度々表明されている。我が国においても、政府は、性的指向に基づく差別を禁止する措置を様々な分野で宣言し、平成27年以降、多数の自治体がパートナーシップ制度を導入し、国会でも同性婚の可否に関する質疑が度々行われている。国民の意識においても、同性婚に賛成する者の割合は年々増加し、平成30年の時点で60%を超えるようになり、その後も増加を続けているし、同性婚の実現への支持を表明する企業団体等は増加し続けている。これらのことから、我が国でも婚姻は異性のものという社会通念に疑義が示され、同性婚に対する国民の理解も相当程度浸透されているものと認められる。
(4) 以上のとおり、本件諸規定の下で原告ら同性カップルは婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っていること、婚姻制度は異性婚を前提とするとはいえ、その実態が変遷しつつあること、婚姻に対する社会通念もまた変遷し、同性婚に対する社会的承認がいまだ十分には得られていないとはいえ、国民の理解が相当程度浸透されていることに照らすと、本件諸規定の立法事実が相当程度変遷したものと言わざるを得ず、同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定はもはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にあると言わざるを得ない。
(5) しかしながら、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益ではあるものの、憲法上直接保障された権利とまではいえず、その実現の在り方はその時々における社会的条件、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決せられるものである。憲法24条2項は「婚姻及び家族に関するその他の事項」について立法府の合理的裁量を認めているところ、同性愛者らの重大な不利益を解消し、自己決定を尊重する制度の在り方については、様々な考慮をする必要がある。同性カップルを法的に保護するための法制度として諸外国で採用されている登録パートナーシップ制度は、その内容次第では婚姻制度の代替となり得るものであり、同性婚についてこのような婚姻制度と異なる制度を設けるか否かについても立法府における議論に委ねることが相当である。また、同性間の人的結合においては、生物学上の親子と戸籍上の親子が一致せず、これを前提にした規定が必要となること等から、嫡出推定の有無、養子縁組の可否、生殖補助医療の可否については、現行の婚姻制度と異なるものとする余地があり、このような制度設計や枠組みの在り方については、我が国の伝統や国民感情を含めた社会的状況における種々の要因を踏まえつつ、さらに、子の福祉等にも配慮するといった様々な検討・調整が避けられず、立法府における検討や対応に委ねざるを得ない。
また、我が国において、国会で同性婚に関する質疑が行われ、地方自治体によるパートナーシップ制度が初めて導入され、同性婚に関する各種意識調査が開始されたのはいずれも平成27年以降であり、近時の調査によっても、20代や30代など若年層においては、同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な意見が多数を占めるものの、60歳以上の年齢層においては肯定的な意見と否定的な意見が拮抗しており、国民意識として同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な意見が多くなったのは、比較的近時のことであると認められる。そうすると、立法府による今後の検討や対応に委ねることが必ずしも不合理であるとまでは言えない。
以上によれば、同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が立法府たる国会の裁量権の範囲を逸脱したものとして憲法24条2項に反するとまでは認めることができない。
6 結論
以上のとおり、本件諸規定は憲法13条、14条1項、24条に反するものとはいえないから、国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を講じないことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。
福岡地方裁判所第6民事部
裁判長裁判官 上田洋幸
裁判官 橋口佳典
裁判官 馬渡万紀子