「教員の労働条件は、子どもの教育条件。教員の多忙化の解消は、喫緊の課題だ」(愛知工業大学の中嶋哲彦教授、日本教育政策学会会長)
「子どもの学習や生活そのものをサポートするのが教員。その教員が多忙なままでは、学校がもたない」(東京大学の小玉重夫教授、日本教育学会会長)
「子どもを取り巻く学校の環境は、年々悪化している。教員の自己犠牲の精神による解決には、限界がある」(東京大学の小国喜弘教授、日本教育学会理事)
教員の長時間労働が慢性化する中、教育学者らは5月末、東京都内で記者会見を開き、教員への残業代の支給や、教員の増員などを国に要請すると表明した。
会見の同日、署名を募り始めた。集まった署名は今後、首相や文部科学相、財務相などに宛てて提出する方針だという。
教員の給与をめぐっては、1971年に制定された給特法により、残業代は支給されないことになっている。代わりに、教員に対して月給の4%を「教職調整額」として一律に上乗せしている。
残業時間に見合った残業代が支払われない実態は、「定額働かせ放題」などと揶揄されてきた。
文科省が4月に発表した2022年度の調査結果によると、1カ月あたりの時間外勤務が文科省の定める上限基準(45時間)を超える教員は中学校で77.1%、小学校で64.5%を占めた。
こうした現状を踏まえ、教育学者らは教員の長時間労働の解消に向け、▽教員にも残業代を支給する▽学校の業務量に見合った教員や職員を配置する▽残業代支給や教員増員のため、教育予算を増やすーーといった対策を提案。今後、署名とともに国に提言していくという。
「教員の仕事が子どもの現在や将来の生活に直結することは、いうまでもない」
上智大学の澤田稔教授(日本教育方法学会理事)はそう指摘した上で、「財政的な措置が講じられなければ、現場の悲鳴に耳を塞ぐだけになる」と警鐘を鳴らした。
桜美林大学の中村雅子教授(日本教育学会監事)は「国は教員に『あれもやってくれ、これもやってくれ』と仕事を増やしてきた」と指摘。その上で、「教員の労働条件が厳しいために、子どもの人格形成のための教育を期待しても、(実現は)難しくなっている」と危機感を表明した。
自民党は給特法をめぐり、教員の残業代の代わりに月給に一律で上乗せする「教職調整額」を現在の4%から10%以上に引き上げる方針を提言している。
これについて、中嶋教授は「調整額を増やすだけでは、(教員の長時間労働の)根本的な解決にはつながらない」と強調。
「現状では(調整額が)30%でも(残業代としては)足りない」と長時間労働の深刻さを指摘した上で、「『働かせたら働かせた分の残業代を払わなければならない』という仕組みにすることで、『これ以上働かせてはならない』とブレーキがかかる法制度に改革する必要がある」と訴えた。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉