岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の目玉として児童手当を高校生まで拡大する一方、税負担を軽くする所得税控除などの扶養控除の廃止案が浮上している。負担増につながる世帯が出てくるとして、6月1日、子育て支援政策の推進を求める7団体が東京・永田町の参院議員会館で「扶養控除の廃止ストップ」を求める緊急集会を開いた。
少子化対策として浮上しているのが、児童手当の拡充策を検討するというものだ。所得制限の撤廃や多子世帯への加算のほか、現在は中学生までとなっている児童手当の対象を高校生まで広げる案が出ている。ただ、財源確保の観点から、児童手当の対象を広げるのであれば高校生を育てる世帯の扶養控除の見直しも一緒に検討されることになりそうだ。
現行制度では、16〜18歳までの子どもを扶養している場合、1人あたり年38万円が所得から控除される。所得税は、給与収入からこの控除分を引いた「課税所得」にかけられる。適用税率は課税所得によって5〜45%まで7段階にわかれており、高所得者ほど、所得税控除による税負担の軽減効果が大きい。
「子育て支援拡充を目指す会」が、高校生にも年12万円の児童手当が給付される一方で扶養控除が廃止になった場合の家計への影響を試算している。例えば、夫婦それぞれの年収が330万円で世帯年収660万円の場合、所得税は1万9000円負担が増える。このほか、住民税が3万3000円、社会保険料が1万2000円の負担増となる。控除がなくなることで所得が“増える”ことになるため、所得で線引きされている高校無償化にも影響が出てくる。その額が27万7200円。すべてを足し合わせると、負担増は22万1200円になるという。同会の工藤健一代表は「これは世帯年収660万円の話で、まったく高所得層の問題ではない」と話した。
さらに、この日の集会では、母子家庭などの低所得世帯にも影響が及ぶ点が指摘された。名目の所得額が増えることによって、非課税から課税対象になって住民税が発生したり、所得税が増えたりすることがあるという。
過去には、民主党政権下だった2010年度の税制改正で、子どもへの手当が新たに設けられる代わりに、15歳以下の扶養控除が廃止されている。この点を踏まえ、工藤さんは「この間、少子化は加速してしまっている状況がある中で、その検証もせずに控除を廃止するのには大いに疑問がある」と述べた。
都内で1歳児を育てる女性は「扶養控除の廃止は、子育て世代間での予算の付け替えどころか、増税かつ支援先を減らす手法だ。日本の子育ては出産をはじめ、自助のみでしていると言っても過言ではない。今の日本は子育て罰だ」と政府の政策に疑問を投げかけた。
議論はこれから本格化
児童手当の拡充については、これから議論が本格化する。
鈴木俊一財務相は5月23日の記者会見で扶養控除の見直しの可能性について問われ、「児童手当の充実を検討する際は、歳出と税制のあり方を総合的に考える中で、扶養控除との関係を整理する必要があると考えている。そういう問題意識はもっている」と答えている。
集会に出席した中野洋昌衆院議員(公明党)は「検討段階のものが報道されている。与党での議論もこれからで、まだ中身も何も決まっていない。子育て世代の当事者の声に耳を傾けて議論していく」と述べた。
橋本岳衆院議員(自民党)は「扶養控除見直しの話が出たが、子育て世帯の理解が得られないと思っている。手当すべきところに手当を増やさないと意味がない」としながらも「新しい政策をするために新しい財源を得ようと思うと、どなたかに負担をお願いする局面が必ず出てくる」と述べ、議論を尽くす重要性を強調した。