上田清司参議院議員の元公設秘書の男性(故人)から取材活動中に性暴力を受けたとして、元記者の女性が国に損害賠償を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が6月1日、東京地裁(中村心裁判長)であった。
原告の元記者が出廷し「権力のある人が性の罪を犯しても、加害者が守られ、被害者が理不尽を強いられてそれを引き受けさせられるようなことを放置できない」」などと意見陳述した。
この裁判で原告側は、特別職の国家公務員である公設秘書が職権を濫用したり、上田議員が秘書に対する指揮監督責任を怠ったりした結果、記者への性暴力が起きたとして、国に損害賠償を求めている。
国側は請求の棄却を求めている。
原告は、公設秘書からの性被害について「性的な目的でその(取材の)場をセッティングするなんてあり得ないと思っていた。でも私の判断は裏切られた。仕事でこのような目に遭うとは思わなかった」と陳述。
提訴に踏み切った理由として「加害者に対する怒りもありますが、それ以上に、権力のある人が性の罪を犯しても、加害者が守られ、被害者が理不尽を強いられてそれを引き受けさせられるようなことを放置できない」などと訴えた。
原告は陳述の中で、公設秘書が原告に対するわいせつ行為などの疑いで書類送検された後に自殺したと説明。政治家から、「よくあることなのになぜ被害届を出したのか」と言われたとも明かした。
被害に加えたこうした一連の出来事で「私の人格は否定された」「名誉や活動に深刻打撃を受けた」などと訴えた。
最後に「加害者が自死したら、被害者は泣き寝入りしないといけないのか。そうではない判決を求めます」と訴えた。
性暴力被害、訴えの内容は
原告側は訴状で、公設秘書からの性暴力の内容や状況として、次のように説明している。
原告は2020年3月、上田議員の後援会事務局長からの誘いで、新型コロナ感染対策をめぐり意見交換する会合に参加。公設秘書や自民党の衆院議員、国立病院の院長ら5人がおり、食事や飲酒をしながら行われた。
情報を得ようとしていた原告は何度も飲酒を勧められ、会合が終わるころには眠くなって半ば意識を失う状況だった。
帰りのタクシーで寝入ってしまったところを、事務局長からの依頼で同乗していた公設秘書からわいせつな行為をされ、気づいて拒否した後も繰り返し被害を受けたという。
原告はその状況から逃れようとタクシーを降りたが、降車して追いかけてきた公設秘書から、再びわいせつな行為をされたという。
公設秘書はその数日後、情報提供をほのめかして原告を飲食店に呼び出した。多量に飲酒させて前後不覚となった原告をホテルに連れ込み、抵抗できない状態に乗じて性的暴行をしたという。
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訴状によると、原告は警察に被害届や告訴状を提出。公設秘書は2020年8月、準強制性行等と準強制わいせつの容疑で書類送検されたが、その数日後に自殺した。
上田議員側から、自殺を理由に公設秘書に対する告訴を取り下げるよう要請があったとも訴えている。
上田議員は衆院議員を経て埼玉県知事を務め、2019年から参院議員。
上田清司事務所の担当者は今年3月の提訴時、ハフポスト日本版の取材に「当事務所として女性に対する暴力やパワハラは許されるものではないと考えているが、書類送検があったかという事実については当時の担当者が既に不在であるため事務所としてはお答えできません。当事務所の秘書であったものについても、亡くなっているのでコメントは控えさせていただきたい。『上田議員から告訴を取り下げてほしいと要請があった』という女性側の訴えについても詳細は不明です」とコメントしている。
「職務権限を利用した違法行為」と原告
国家賠償法は、国家公務員が職務上、故意や過失によって違法に他人に損害を与えた場合、国に賠償責任があると定めている。
訴状は、会合への出席や情報提供は「公設秘書としての職務だった」と指摘。送迎を任された際の原告へのわいせつ行為は「職務の執行に際して行なった不法行為」と訴えている。
情報提供をにおわせて原告を呼び出し、酔わせた無抵抗な状態で性行為を強制したとして「職務権限を利用して振るった違法行為」だと主張。公設秘書による一連の性暴力が起きたのは「上田議員による監督権限行使(不作為)の結果だ」と指摘している。
朝日新聞によると、上田議員は提訴を受けて開いた3月の記者会見で、自身の責任について「公設秘書を、一般的に仕事後や休日に追っかけて管理する仕組みは、基本的には持っていなかった。注意義務を怠ったと言われたら、なかなかつらいと感じる」と述べたという。