ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年死去)から性暴力を受けたと訴えている元「ジャニーズJr.」で俳優・ダンサーの橋田康さんが5月26日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見を開いた。
橋田さんは「現在の児童虐待防止法は、子どもたちを守るには十分ではないと感じる」として、同じく性被害を訴えているカウアン・オカモトさんらとともに署名活動を始めることを明らかにした。
(※この記事には、性暴力に関する描写があります)
訴え出たのは「新しいスタートを切ってほしいから」
橋田さんは1998年、テレビ局のオーディション企画に参加してからジャニーズJr.としての活動をスタートし、19歳までジャニーズ事務所に所属した。
喜多川氏から最初に性暴力を受けたのは、入所の約1年後、10代の頃だ。公演中の宿泊先のホテルで、喜多川氏が橋田さんのベッドに入り、性被害に遭ったという。喜多川氏が部屋を出た後、橋田さんはすぐにシャワーを浴びた。
「体を洗い流しているうちに、涙が自然と溢れて止まらなくなった」
「性体験や性の知識もなかったので、何が起きているのかわかりませんでした」
翌朝、喜多川氏から1万円を手渡され、「自分の価値は1万円なんだ」と感じたという。
一方で、橋田さんは喜多川氏に対する現在の思いについて、「なかなかご理解いただくのは難しいかもしれませんが、このような体験をした上で、私は今でもジャニーさんのプロデューサーとしての才能の凄さを感じています。尊敬もしています。『性加害がなかったら』。そう思うこともありました」と明かした。
実名で顔を出して被害を公表した理由について、橋田さんは次のように語った。
「私が今、実名顔出しで話すことで、今後芸能活動をしていく上で、性加害に遭った人だと思われてしまうリスクがあることは十分に承知しています。それでもこうして皆さんの前でお話をするのは、ひとえにジャニーズ事務所のこの問題が早く終結し、新しいスタートを切ってもらいたいから。そして、日本の芸能界のエンターテインメントがより良い方向に向かって、より良い場になることを願ってのことです」
立民、「児童虐待防止法」改正案を提出
ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、立憲民主党は児童虐待防止法の改正案を単独で衆議院に提出した。
現在の児童虐待防止法は、虐待の行為主体を「保護者」と定めている。
立民の改正案では、保護者だけでなく、芸能事務所の経営者など経済的・社会的に強い立場にある第三者からの、地位を利用した子どもへの性暴力も「児童虐待」に当たると規定。
さらに、地位を利用した第三者による虐待の疑いを発見した人に対し、警察に通報することを義務付ける規定も盛り込んだ。
橋田さんは、現在の児童虐待防止法について、「自分が経験した環境も含めて考えると、現在の法律は子どもたちを守るには十分ではないと感じました」と言及。
行為者が第三者の場合の通報義務を盛り込んだ改正案に触れ、「見て見ぬふりを止めることが更なる被害の抑止につながり、新たな加害者を生まないことにもなると思います」と語った。
会見で橋田さんは、児童福祉法改正を求める署名活動を開始すると報告した。
同じく喜多川氏からの性被害を訴え出ているカウアン・オカモトさん、二本樹顕理さん、志賀泰伸さんが発起人に名を連ねるという。
さらに、橋田さんは今後元所属タレントたちから話を聞き、彼らの声を集めて「事務所との架け橋になれれば」と話した。
藤島社長「知らなかった」に橋田さん「知らなかったことはないと思う」
橋田さんをはじめ、元所属タレントたちからは喜多川氏による性暴力被害を訴える声が相次いでいる。
ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長は5月中旬、「世の中を大きくお騒がせしておりますこと、心よりお詫び申し上げます」と謝罪する動画を発表。
動画に併せ、「各方面からの質問への回答」とする文書を公式ホームページに掲載した。
文書の中で、藤島社長は「被害を訴えておられる方々、精神的に苦しんでおられる方々に対しては、カウンセラーをはじめ、専門家の力もお借りしつつ、誠実に向き合ってまいります。それをやらずして、私たちに未来はないと考えております」と述べている。
喜多川氏の性加害問題をめぐるBBCのドキュメンタリー番組や、カウアン・オカモトさんが被害を訴え出たことについて、「当然のことながら問題がなかったとは一切思っておりません」とした。
一方で、「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、私どもの方から個別の告発内容について『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」などと主張し、事実認定を避けた。
文書の中で、藤島社長は「知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした」と釈明した。
これに対し、橋田さんは会見で「内部では(性加害の)噂もあり、そこに目を向けなかったことがあったとしても、全く知らなかったということはないと思う」と述べた。
▼性暴力について相談できる窓口
・ワンストップセンター、性犯罪・性暴力に関する相談窓口の全国共通短縮番号「#8891」
・警察庁の性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103」
・内閣府「性暴力に関するSNS相談支援促進調査研究事業」 Curetime
時間:24時間365日(17〜21時はチャット、それ以外の時間はメールで相談可能)
方法:チャットのみ。外国語での相談も受け付けている。相談機関では性暴力専門の相談員が対応している。状況や本人の意思を踏まえて対応を考える。相談員が本人とともに警察へ行く場合もある。
▼衣服と身体を洗わない
性被害にあった証拠を採取するために、重要となるポイントがある。
- 被害に遭った時の衣服を洗わない
- 身体を洗わない
薬物の使用が疑われる場合は、尿検査や血液検査をする必要がある。なるべく早く警察やワンストップセンターに相談することが大切だ。