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「住宅弱者」という言葉を知っていますか?
外国籍だから、LGBTQ当事者だから、生活保護を利用しているからーー。そんな理由から「不動産契約を断られやすい」人たちのことです。
全人口の3割以上いるとされ、「高齢者」も入りますが、「年齢を重ねると物件探しに難航する」ということはあまり知られていません。
「様々なバックグラウンドなどにより、住まい探しでつらい思いをすることのない社会を作りたい」。 そんな思いから、住宅・不動産情報サービスを運営するLIFULL(ライフル)が、住宅弱者の物件探しに力を入れる不動産会社を検索することができるウェブサイトLIFULL HOME’S『FRIENDLY DOOR』を展開しています。
事業責任者を務める龔軼群(キョウイグン)さんは「誰もがいつ、社会的マイノリティになるかわかりません。また高齢者は誰もがいずれなるものです。だからこそ、自分ごととして捉えてほしいです」と力を込めます。
◆『知らないものに蓋をする』という風潮
住宅弱者を支えたいと思ったのは、龔さん自身や親族が外国籍であることで、物件探しに苦労してきたことが大きいといいます。中国の上海で生まれ、5歳から日本で暮らす龔さんは、思い返すと幼い頃から日本人の保証人が求められない「UR賃貸住宅」を転々としていました。また親族は、留学生として日本に来た時、日本人の保証人がいたのにもかかわらず、家を借りられなかったといいます。
家探しに困っているのは外国人だけではありません。同社が2022年に実施したアンケート調査によると、高齢者や外国籍、生活保護利用者、シングルマザー・ファザーなど、「住宅弱者」層に当たる1322人のうち60.4%が、自身のバックグラウンドを理由に、住まい探しで不便を感じたり、困ったりした経験があると答えました。
一体なぜ、社会的マイノリティの人らは住まい探しが難航するのでしょうか。龔さんによると、その背景には「借地借家法」という法律があるといいます。一回入居した人を、よほど正当な理由がない限り退去させられないという内容です。
その法律に、「外国籍の人は近隣の人とトラブルになるのでは」「シングルマザーに家を貸したら、子どもの病気などで働く日数が減った時、家賃の支払いが滞るかもしれない」といった偏見や先入観から、入居を断るオーナーが多いという実情が重なっているのだと言います。
「本人に支払い能力があるかどうかよりも、『知らないものに蓋をする』という風潮が強いのだと思います」(龔さん)
◆高齢者になると、家を借りにくくなる
では実際に、『FRIENDLY DOOR』のサイトをみてみましょう。以下の9つのカテゴリーごとに、相談に応じてくれる不動産会社を検索することができます。
・外国籍
・LGBTQフレンドリー
・生活保護利用者
・高齢者
・シングルマザー・ファザー
・被災者
・障害者
・家族に頼れない若者
・フリーランス
2020年2月時点で1000件ほどだった参画店舗数は、2023年5月時点で約4700店舗になりました。今も毎月80~100件のペースで増えています。
これは人口減社会の中で、より多くの人を受け入れていきたいという不動産業者や、外国籍の人やLGBTQ当事者など、「自分が住まい探しに苦労する」自覚がある住宅弱者が増えているということも意味しています。物件が借りにくいからこそ、一度物件を借りられた不動産業者へのリピーターが多くなり、当事者と業者の双方にメリットが大きいという実情があるといいます。
一方、住宅弱者の中に高齢者が含まれることは、あまり知られていません。物件オーナー目線から見ると、住んでいた人が亡くなった場合、その物件は「事故物件」だと判断されるケースもあり、龔さんは、「価値が落ちてしまうことが背景にある」と話します。また法律で、不動産業者などが勝手に遺品の処分などをすることはできず、相続人の同意がない限り契約を解約することはできません。
それは、契約者の親族に連絡が取れないと、不動産業者側が当該物件の処理を進められないことを意味しています。
こうした背景があり、不動産業者やオーナーはリスクを取りたくないため、仮に高収入で多額の貯金があったとしても、「死亡リスク」が高いとされる高齢者の契約を断るケースが多発していると龔さんは指摘します。
「住宅弱者は、自分には関係ない」。そう思っている人も少なくないのではないでしょうか。ですが高齢者になると、誰もが家を借りることが難しくなります。龔さんは、「特に65歳以上になると、住み替えができなくなるという当事者意識を、皆さんに持ってほしいんです」と強調した上で、こう投げかけます。
「あなたがこの先の人生を歩む中で、自分の住まいの選択をどう考えますか」
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>