新しい戦前にさせない〜「軍拡より生活」の動き、各地に広がる

「新しい戦前になるんじゃないですかね」。昨年末、「徹子の部屋」にゲスト出演したタモリ氏が、2023年について問われて言った言葉だ。
安全保障関連3文書改定に反対し、「軍拡反対」などと書かれたプラカードを掲げるデモ参加者=2022年12月16日、東京・永田町
安全保障関連3文書改定に反対し、「軍拡反対」などと書かれたプラカードを掲げるデモ参加者=2022年12月16日、東京・永田町
時事通信社

「新しい戦前」  

昨年末、「徹子の部屋」にゲスト出演したタモリ氏が、2023年について問われて言った言葉だ。

「新しい戦前になるんじゃないですかね」

その少し前、政府はロシアのウクライナ侵攻などを理由に今後5年間の防衛費を計43兆円にすることを閣議決定。敵基地攻撃能力保有を盛り込んだ安保3文書も閣議決定されるなど、このところ防衛政策の大転換が進んでいる。

そんな状況を受けて今年1月、「軍拡より生活」を掲げる「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」が発足。これに続いて関西・熊本でも「女たちの会」が結成された。

そうして札幌でも「軍拡NO! 女たちの会・北海道」が発足したということで、5月11日、札幌で開催された設立記念シンポジウムに登壇してきた。

ともに登壇したのは法政大学名誉教授・前総長の田中優子さん、コーディネーターは室蘭工業大学大学院教授の清末愛砂さん。

会場のエルプラザ(札幌市男女共同参画センター)には定員300人を超える人が押し寄せ、超満員。参加者の熱気に圧倒されつつ進行したシンポジウムでは田中さん、清末さんの話に大いに考えさせられ、勇気をもらったのだった。

そんなシンポジウムで私が話したのは、主に貧困問題について。

17年間にわたってこの問題に取り組む中、ずっと「財源がない」という言葉に苦しめられてきたこと、そんな中で生活保護基準引き下げなどの社会保障削減の動きに対して「人の命を財源で語るな」というスローガンを掲げて運動してきたこと、それなのに今回の43兆円の予算に関しては財源論は完全にスルーされていることへの違和感を話し、とにかく今まさに困窮に晒されている人々への手厚い支援こそが重要で、国防予算を大幅に増やしている場合ではないことを強調した。

2時間にわたるシンポジウムは本当に刺激的だったのだが、その前の会のメンバーとの懇親会も大変興味深く、改めて、北海道と自衛隊の距離の近さを実感した。

基地や駐屯地が多いので、会話に「戦車道路」という言葉が当たり前に登場する。東京にいると遠い存在になりがちな自衛隊員は、顔が見える隣の誰か、「〇〇さんの息子さん」だ。

さて、そんな札幌で「この話をすればよかった」と今更ながら思ったことがあるので、それについて触れたい。

それは「非常事態」が近づくと、社会はどう変わるかということだ。

例えばコロナ禍初期、「自粛警察」という言葉が登場したことを覚えているだろう。自粛していないライヴハウスや飲食店を攻撃したり、偏った正義感から「取り締まり」のようなことをする人々だ。パチンコ店やサーフィンなどが目の敵にされた時期もあった。相互監視の熱が高まり、異質なものは徹底的に排除される空気があっという間に日本社会を覆ったことにゾッとした人も多いだろう。

3年前、感染症の流行という状況で一気にそんな空気が形成されたのだ。これがもし、戦争だったら。

そんなことを考えるときに思い出すのは、戦争と障害者について多くの頁が割かれた荒井裕樹さんの『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)という本だ。以前も「戦争と障害者〜『戦えない人』は戦時にどう扱われてきたか」の回で紹介したが、この本には、戦争という非常時、戦えない人、足手まといとなりそうな人がどんな扱いを受けるかを示すエピソードが多く登場する。

例えばアジア太平洋戦争時、兵力や労働力になれない障害者たちはどんな状況に置かれたのか。

障害児教育に人生を掲げたある教育者は、視察に来た教育者たちから「非国民」となじられている。

「国家が非常時にもかかわらず、障害児にこんな手間暇かけるとは何事か」と責められたというのだ。

また、戦争末期、障害児たちは疎開したのだが、疎開先で軍部から青酸カリが渡されたという。何か起きた時のための「処置用」ということらしい。

以下、本書からの引用だ。

「『鬼畜米英』『撃ちてし止まん』といった荒々しい掛け声に混じって、障害者たちは『米食い虫』『非国民』と罵られていた。敵を罵る社会は、身内に対しても残酷になる。松本校長をなじった教育者たちのように『役に立たない人』を吊るし上げることが『愛国表現』だと勘違いするような人たちが出てくるのだ。

このエピソードを思い返すたびに、最も安易でたちの悪い『愛国表現』は、その場の空気に乗じて反撃できない弱者を罵ることだと痛感する」

それだけではない。この本には、やはり「兵力」にはならないハンセン病患者の書いた詩が登場する。『おねがひします鉄砲を』という詩は、なんとも勇ましい内容だ。

「鉄砲を下さい!」「鉄砲と機関銃をおねがひします!」など、自分も戦いたくて仕方ないという思いがほとばしる詩。

荒井氏によると、「戦時中の障害者の文学作品には、実は熱烈に戦争を賛美するものが多い」という。なぜか。

「『戦争の役に立たない』からこそ、逆に『私はこんなにも戦争のことを考えています』といった表現をしなければ、ますますいじめられてしまうからだ」

障害児教育に力を入れる先生が「非国民」と言われてしまう社会は、個人の自由を著しく制限する社会であることは間違いない。

「この非常時に〇〇なんて」という言いがかりは、どんなことにも使える万能の言葉だ。〇〇に、あなたの大切なことを入れてみるとどうだろう。

 「この非常時に推し活なんて」
 「この非常時に旅行なんて」
 「この非常時に保護猫のボランティア活動なんて」
 「この非常時に音楽活動なんて」
 「この非常時にスポーツなんて」

こういう形で、なんにだって言いがかりをつけられる。「言うこと」を聞くように仕向けられる。そして空気に抗うものには、徹底的な制裁と排除が待っている。

私はこのような「空気」が、一番怖い。そしてそんな空気に一気に染まりかねない日本の「世間」の暴力性は、多くの人の身に覚えがあるものではないだろうか。誰かを「非国民」と名指すことによって得られる一体感と安心感を、経験せずとも私たちは知っている。それほどに、私たちは弱さを抱えている。

さて、「新しい戦前」にさせないためにできることはたくさんある。

まずは「女たちの会」が全国に広がっていることが心強い。

5月20日には、つくばでも設立集会があるとのことで、こちらにも呼んで頂いた。

ぜひ、つながり、声を上げていきたい。 

軍拡NO! 女たちの会・茨城 設立集会
「軍拡より生活 いのちを守ろう!」
 
日時:5月20日(土)13:30〜16:00
場所:バークスタジオ(つくば市天久保1-7-18)
参加費:500円
 
13:45〜 雨宮処凛 講演会
15:00〜 『沖縄、再び戦場(いくさば)へ(仮題)』(三上智恵監督)スピンオフ作品上映会

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