急速に活用が広がる生成系AI(人工知能)「ChatGPT」を、大学の課題や試験で使ってもいいのーー?
アメリカ企業のOpenAIが開発し、簡単な指示で文章を自動的に生成できるChatGPT。利用が急増する中、大学は学生に対し、どこまで活用を認めるのか。
大学での利用や制限をめぐり、文部科学省は「方針は検討中」としており、判断は大学側に委ねている。
教員に任せたり、リポート作成など一部の場面での利用のみを禁じたり、積極的な利用を推奨したりと、大学により対応はさまざまだ。
これまでに発表された各大学の方針をまとめた。
「教員の指示に従って」東大、東工、慶應、東京外語、東北
東京大学、東京工業大学、慶応大学などは、生成系AIの利用を全面的には禁止せず、講義を担当する教員の指示に従うよう求めている。
東大は「ChatGPTを始めとした言語生成系AIツールの教育現場での利用を一律に禁止することはしない」と表明している。
一方で、「個々の場面、特に教育においては、場面ごとの教育目標・達成目標に鑑みて、利用を禁止することが適切な場合がある」と指摘。「生成系AIを使わせる・使わせない・どう使うかという判断も、教員らが教育効果を最大にすることを目標に行うべき」として、各教員に判断を委ねる方針を示した。
東大は方針の表明に先立ち、ChatGPTについて「大量の既存の文章やコンテンツの機械学習と強化学習を通じ、確率的にもっともらしい文章を作成していくもの」と説明。「書かれている内容には嘘が含まれている可能性があり、非常に話し上手な『知ったかぶりの人物』と話しているような感じ」との認識を示した。
その上で、「問題を生じないようにできる方向性を見出すべく行動することが重要」と指摘。「生成系AIがもたらす様々な社会の変化を先取りし、積極的に良い利用法や新技術、新しい法制度や社会・経済システムなどを見出していくべき」と見解を示した。
東工大も「生成系AIのツールとしての危険性と有用性の両面に鑑み、現時点では使用を全面禁止にはしない」とした上で、講義を担当する教員の指示に従うように求めた。
「学生の主体性を信頼し、良識と倫理観に基づいて生成系AIを道具として使いこなすことを期待する」と表明。一方で、「生成系AIの出力をほぼそのまま鵜呑みにしたレポートを提出することは、生成系AIに隷属することにも等しく、甚だ不適切」と強調した。
慶應大は「教員らが示す方針のもとで適正に活用」するよう求めた上で、生成系AIを利用してレポートなどを作成した場合には「その旨を明記することが必要」と定めた。
「学生が社会に出たときには使いこなすことが求められるツールになっていると思われる」
生成系AIについて、そんな認識を示した大学がある。東京外国語大学だ。
「大学では使い方を制限するというより、学びの場にふさわしい使い方・考え方の教育がむしろ必要」として、活用方法を講義の担当教員に委ねると表明した。
教員に対しては、▽もしAIを使ったことがない場合、直ちに試すこと▽授業でのAIの利用にあたってのルールを明確にすること▽AIが生成した文章を検知するサービスを全面的に信頼しないことーーなどを求めた。
東北大学も生成系AIの使用は各講義の教員の指示に従うように求めた。その上で、「未発表の論文や個人情報などを生成系AIに入力してしまうと、意図せず情報が流出してしまう可能性がある」と注意喚起した。
利用制限の場面を明示 横国、神戸、日大、上智
部分的に利用を制限したり、特に注意するべき場面を明示したりする大学もある。
横浜国立大学は生成系AIをめぐる方針を「検討中」としつつ、▽生成系AIのみで論文やリポートなどを作成する▽個人情報や機密情報などの非公開情報を入力するーーという2つの利用方法だけは制限すると明言した。
「作成された文章をそのままリポートなどに利用した場合、『剽窃(ひょうせつ)』とみなされることがある」と警告したのは神戸大学。生成系AIの活用方法や利用制限について、大学としての方針を明確に示してはいないものの、「授業によっては生成AIの使用自体を制限・禁止する場合がある」と表明した。
学生数が全国最多の日本大学は、担当教員の指示に従うように求めている。一方で、レポートなどの課題について「生成AIのみによって生成されたものを学生独自の成果物とはみなすことができない」と警告。
「生成AIの利用は他者の力を借りることと同じ意味を持つ」と指摘した上で、「課題や試験等に関して、独力で取り組むことが求められている場合には、生成AIの利用は認められない」との方針を示した。
生成AIが示すデータには他人の著作物が含まれている可能性があることから、「著作権侵害や剽窃・盗用となるおそれがある」として、授業の内外にかかわらず使用に注意を払うよう強調した。
上智大学は「試験における『持ち込み可』と同様に、教員の許可があればその指示の範囲内で(生成系AIを)使うことは可とする」としつつも、「AIチャットボットが生成した文章やプログラムソースコードなどは本人が作成したものではないので、使用を認めない」とする原則を明示した。
「検出ツールなどで(生成系AIの)使用が確認された場合は、不正行為に関する処分規程に則り、厳格な対応を行う」と厳しい姿勢を示した。
積極的な活用を推奨 筑波、芝工
一方で、生成系AIの活用を積極的に勧める大学もある。
筑波大学は生成系AIについて「学術的にも産業的にも大きな成果を挙げると期待されている」との認識を示した上で、「新規技術の社会への定着に向けて積極的に活用することを基本とする」と表明した。
ただ、「データなどを恣意的に選ぶことで言論・思想統制に用いられる危険性がある」など複数の問題点があることを踏まえ、「使用者の責任を自覚して、慎重に取り扱うこと」を求めた。
芝浦工業大学は「基本方針として生成系AIの利用を推奨する」と表明した。
「(生成系AIの)リスクや懸念点も遠からず解消され、AI利用に関連する法律面・倫理面の整備も進むだろう」と指摘。その上で、「(学生が)大学を卒業し社会で活躍するころには、生成系AIの活用は必須になると考られる」との認識を示した。
一方で、活用の際には「生成された内容の真偽の確認はもちろん、内容を十分に吟味し、自身の考えを整理してまとめる」ように求めた。「レポートを書くための安易なツールとしてではなく、生成系AIを学びを深めるために利用することを願っている」
文科省の担当者は「各大学は生成系AIのリスクと効果の両方を考慮し、独自に検討して対策を決めていると認識している」とした上で、「文科省としての方針は、AIをめぐる政府全体の議論を踏まえて検討していく」と話している。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉