「冠婚葬祭に行けない」「墓参りに行けない」生活保護引き下げ違憲訴訟、3月の3連勝を受け、厚労省に要請書を提出

第二次安倍政権発足とほぼ同時に始まった生活保護費の引き下げ。今、多くの裁判所が「違法」と認める引き下げを、生活保護利用者は耐え忍んできたのである。
生活保護費減額訴訟の判決を受け「勝訴」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告側弁護団=2023年02月10日、宮崎市
生活保護費減額訴訟の判決を受け「勝訴」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告側弁護団=2023年02月10日、宮崎市
時事通信社

「テレビも洗濯機も何もない。こないだラジオが故障して、修理できずにそのままになっています。ないないづくしの中、裁判が始まって、弁護士から『何が買えなくなりましたか』と聞かれて、普段から何も買えないから答えられませんでした。風呂は2週間に一度しか入れません。こんな惨めな生活が、文化的な生活と言えるんでしょうか?」

和歌山で生活保護を利用する男性は、そう悲痛な声を上げた。

また、極寒の地・青森に住む男性も辛い胸の内を吐露した。

「冬は6ヶ月近く雪に閉ざされています。その中で生活保護費を引き下げられ、冬季加算も引き下げられ、灯油の値段は上がっています。それでどうやって生活するのか。亡くなった両親の仏壇にあげるお水が凍ってしまうほどの寒さです」

辛いのはそれだけではない。

「お金がないから冠婚葬祭に出席できない。そのために親類たちと交流できなくなって、今は疎遠になっています」

和歌山で生活保護を利用する女性は、遠方に親族のお墓があるものの、お金がなくてお墓参りに行けないまま亡くなったという。それを話してくれたのは弁護団の女性。

3月30日、衆議院第一議員会館の会議室。この日、生活保護引き下げを違憲とする訴訟の原告団・弁護団らが厚生労働省の職員に要請書を手渡した。

この連載でも何度も触れているように、第二次安倍政権発足とほぼ同時に始まった生活保護費の引き下げ。史上最大の670億円で、当時、この決定そのものが、もっとも厳しい層を見捨てるようなメッセージに思えたのは私だけではないだろう。

そんな引き下げを違憲として全国29都道府県で裁判が始まったのが14年。これまで14地裁で判決が出ており、大阪地裁、熊本地裁、東京地裁、横浜地裁、宮崎地裁で原告が勝訴を勝ち取っていたのだが、23年3月24日、青森地裁と和歌山地裁で、29日にはさいたま地裁でも勝訴を勝ち取ったのだ。

これで現在17地裁で出ている判決のうち、8地裁で勝訴となっている。しかも昨年10月からは5連勝。そしてまさかのわずか1週間で3連勝という快挙。

この「勝訴ラッシュ」を受け、青森、和歌山、さいたまの原告と弁護団がこの日、厚労省に「保護基準を引き下げ前に戻すこと」「各地の被告自治体に控訴しないよう指導」することなどを求めて要請書を手渡しに来たというわけなのである。「いのちのとりで裁判全国アクション」の共同代表である私もこの日、要請の場に立ち会った。

それにしても、引き下げが始まったのはもう10年も前。今、多くの裁判所が「違法」と認める引き下げを、生活保護利用者は耐え忍んできたのである。10年間もだ。

しかもこの3年はコロナ禍。私の周りの利用者からは、在宅時間が増えて光熱費負担が重くなった、これまでになかったマスクや消毒液などの出費が痛いという声が聞こえている。しかも、そこに昨年からは猛烈な物価高騰である。総務省によると、物価上昇は18ヶ月連続。生活保護利用者は、トリプルパンチを食らっているような状況だ。

世の中はすっかり「コロナ収束」ムードではないだろうか。が、困窮者支援の現場に目を向けると、コロナ禍は決して終わってなどいないどころか、ここに来て状況はますます深刻になっていることを痛感する。

例えば毎週土曜日に都庁前で「もやい」と「新宿ごはんプラス」によって開催されている食品配布。コロナ禍以降、行列に並ぶ人は増え続けているが、4月1日、過去最多の723人が並んだ。700人を超えたのは初めてとのことで、ここに来て最多を叩き出すほどに、4年目に突入したコロナ禍は困窮者の生活をじわじわと破壊している。コロナ禍で減収した分、なんとか貯金を切り崩してきたものの、ここにきてとうとう尽きたという声も聞く。

食品配布や炊き出しに並ぶ中には、生活保護利用者も一定数いる。ただでさえギリギリの生活費を削られてきた中、どこまで上がるのかわからない物価。今必要なのは、保護費を元に戻すだけではなく、物価高騰に対応するための引き上げだ。

「そんなことは不可能」という人もいるだろう。が、過去には年度途中で保護基準が引き上げられた事例がある。1973年から74年にかけての「狂乱物価」と言われた時期、年度の途中だが緊急的に保護基準が引き上げられたのだ。

さて、この日、各地の原告からは厚労省に厳しい生活実態が語られた。
埼玉の原告男性は、引き下げにより生活扶助費が月7000〜8000円ダウン。テレビが壊れても5年間買うことができなかったことを話してくれた。

それだけではない。2年前には自らがガンとなり、手術を受けたという。原告の中には高齢の人も多く、健康不安を抱える人も増えている。埼玉で裁判が始まって8年7ヶ月。当初35人いた原告は、9人が亡くなり、現在は25人(一人は取り下げ)。だからこそ、「裁判を長引かせるのではなく、政治的決着をはかってほしい」と訴えた。

各地の悲痛な訴えを聞いた厚労省の回答はというと、「判決内容を精査して、関係省庁、被告自治体と協議して対応を決定していきたい」という通り一遍のもの。

そうして4月はじめ、がっかりするようなニュースが入ってきた。

それは4月6日、青森地裁の判決を不服とし、青森市、八戸市が控訴し、同日、和歌山地裁の判決を不服として和歌山市も控訴したというものだった。

今週4月14日には大阪高裁で判決が言い渡される(一審で原告勝訴)。5年間で43兆円という防衛費は政府が勝手に決める一方で、放置され続けている生活保護利用者の窮状。コロナ禍でより重要性が高まる生活保護に対して、どんな判断がなされるのか。

今、「健康で文化的な」生活が、問われている。

各地の裁判に、ぜひ注目してほしい。

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