「性的グルーミング」とはどんな行為か? 子どもたちを守る方法は...

子ども自身が被害を認識しづらい上、周囲の大人も気づきにくい特徴がある。子どもたちを守るにはどうしたら良いのか。
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filo via Getty Images

日本で多くの男性アイドルを輩出してきた「ジャニーズ事務所」創業者で2019年に亡くなったジャニー喜多川氏による性加害疑惑を特集したドキュメンタリー番組を、イギリスのBBCが3月に放送した。

番組内では、性加害疑惑を証言した男性たちの発言を受け、喜多川氏による「性的グルーミング」の可能性が指摘されていた。

ドキュメンタリーはその後日本でも放送され、注目を集めている。また4月12日には、元ジャニーズJr.の岡本カウアンさん(番組では証言していない)が記者会見を開き、喜多川氏から「性的被害を受けた」と述べた。

性的な行為を目的に、子どもを手なずける「グルーミング」とは、「ターゲットを絞り込んで接近手段を確保し、被害者を孤立させ、被害者からの信頼を得てその関係性をコントロールし、隠蔽する」行為と言われる。

加害者は子どもや親から信頼を得ていくため、子ども自身が被害を認識しづらい上、周囲の大人も気づきにくい特徴がある。

どのような手口で子どもに近づき、性的行為に至るのか。被害を防ぐために身近な大人にできることは何か。


性的グルーミングとは

被害者心理学に詳しい公認心理師の齋藤梓さんによると、グルーミングは子どもとの関係別で、

1)リアルで近しい人からのグルーミング(教師、コーチ、養護施設やNPOの職員、親戚、親の恋人など)

2)それほど近しくない人からのグルーミング(公園や公共施設で声をかけてきた人など)

3)オンライン・グルーミング(SNSなどネットを通じて知り合った人)

の三つに分類できるという。

子どもはどのような心理状況に置かれるのか

性的グルーミングの過程で、子どもはどのような心理状況に置かれるのか。齋藤さんは「加害者は、子どもの『大人に認められたい、褒められてうれしい』という気持ちを利用しやすい」と指摘する。

「加害者は、悩みを抱えていて孤立させやすい子どもを選んで近づくことが多いです。『他の人には君の気持ちはわからないかもしれないね。でも自分は同じ経験があって理解できるよ』というように、自らに依存させるよう優しく声がけをします。子どもの欲しがる言葉を与え、徐々に信頼を勝ち得て最終的に性的行為に及びます。子どもの尊敬や信頼する心をうまく利用するんです」


なぜ被害を受けたと気づきにくいのか

子どもたちは性暴力にあっても、被害を受けたと気づきにくい。なぜか。グルーミングの段階で、子どもたちは「見えない檻に囚われている」からだと齋藤さんは言う。

「年齢が幼い場合はそもそも性に関する知識や経験がありません。さらに、子どもにとって加害者は自分を認め、理解してくれる大切な存在です。悩みを受け止めてくれる人を失ってしまう、裏切ってはいけない、この人が自分に悪いことをするわけがない。子どもはそう思い込んでいるので、性的な接触に恐怖や嫌悪感があっても、それが性暴力だと認識することは難しいです」

だまされるのは、子どもだけではない。

「狙う時は家族ごと。加害者が教師や塾の先生、習いごとのコーチなどの場合、保護者をはじめ周囲からも信頼を集めるタイプであることが多いです。大人の信頼も得ているので、加害者が子どもと2人きりになっても親は疑わなくなります」(齋藤さん)

加害者から子どもが「2人だけの秘密だよ」と口止めされたり、「他の人に知られたら大変なことになる」と脅されたりすることもあるという。


子どもたちを守るには

被害を受けた子どもは、「自分の価値がなくなった感じがする」「全てどうでもよくなった」などと訴え、死にたいと思う自殺念慮や不眠の症状が出ることも多いと齋藤さんは話す。

性被害につながるグルーミングから、子どもたちを守るにはどうすれば良いのか。

齋藤さんは、「親切にしてくれる背景に性的な目的があるかないかを子どもが見極めるのはほぼ不可能。子どもたちには防ぎようがないのです」と強調する。その上で、「特別な理由がなければ一対一の状況を作らない、不必要な身体接触はさせないなど、大人が警戒することが必要です」と訴える。

「子どもに優しく接し、相談に乗ること自体はもちろん悪いことではありません。ですが、性的行為を目的に子どもに徐々に近づく手法があるということがより多くの人に知られ、その手段が適切に罰せられてほしいと思います。大人と子どもという対等ではない関係での性的行為に同意は成り立たないという前提のもと、加害者からの暴力がなく子どもが『同意』したかのように見える場合にも、グルーミングによる手なずけがあったかもしれないと身近な大人が疑うことが欠かせません」(齋藤さん) 

子どもへの性暴力 現在の法規制は

地位や関係性を利用した子どもへの性暴力。現在の刑法では犯罪の成立要件が被害の実態に見合わず、加害者が適切に処罰されない問題が指摘されてきた。

性犯罪に関する刑法改正を議論する法制審議会が2月にまとめた骨子案には、これまで罰する法律が日本にはなかったこの「性的グルーミング」行為についても、「威迫、偽計又は誘惑して面会を要求する」ことなどを処罰する新たな規定が盛り込まれた。 

また他にも、性行同意年齢の引き上げや時効の延長も含まれた。

これを元にした刑法改正案が3月14日に衆議院に提出され、審議が進められている。

<子どもの性被害に関する相談窓口>

※2021年11月28日に掲載したこちらの記事を基に編集・加筆しました。

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