「必勝しゃもじ」と劣化ウラン弾、そしてイラク戦争から20年

もしあなたが一国のトップで、現在のウクライナに入るとしたら、一体何を持参するだろう。なかなかの難題だが、我が国の首相は誰もが「まさか」と驚くものを持参した。
ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(右)の出迎えを受ける岸田文雄首相=21日[内閣広報室提供]
ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(右)の出迎えを受ける岸田文雄首相=21日[内閣広報室提供]
時事通信社

もしあなたが一国のトップで、現在のウクライナに入るとしたら、一体何を持参するだろう。

なかなかの難題だが、我が国の首相は誰もが「まさか」と驚くものを持参した。

言わずと知れた「必勝しゃもじ」。お土産とかでもらったら、「ちょっと困る」という人も多いのではないか。いわゆる「いやげ物」――みうらじゅん氏が命名した、もらっても嬉しくない土産物――に分類されるかもしれない。それがあるだけで、どんなにセンスのいい部屋でも雰囲気がぶち壊しになる破壊の神。WBC日本優勝に浮かれたおっさんが近所の寄り合いに持っていくんだったらわかるけど、今のウクライナに一国の首相が持っていくのはだいぶ違うやつ。常識のない私でも、「さすがにそれは」と戸惑いを隠せなかった。

さて、そんな岸田首相によるウクライナ入りから2日後、驚愕のニュースが飛び込んできた。

劣化ウラン弾とは、「核のゴミ」を兵器に転用したもの。

初めて実戦に使われたのは1991年の湾岸戦争。アメリカ率いる多国籍軍によりイラクに劣化ウラン弾が降り注いだ。

そのイラクに、私は99年と2003年の2度訪れている。そこで目にしたのは、小児病院でガンや白血病、また先天性異常に苦しむ子どもたちの姿だった。イラク人医師たちは、湾岸戦争以後、こうした病気が急激に増えたことに触れ、劣化ウラン弾との関連性を強く疑っていた。が、アメリカなどは当然、現在に至るまで因果関係を否定。経済制裁下の当時のイラクには医薬品も満足になく、病院の薬棚は空っぽ。ベッドの上でただ死を待つだけの子どもたちの姿は、忘れたくても忘れられないものとして私の中に残っている。

そんな経緯から03年、イラク戦争が始まりそうだという時は居ても立ってもいられずバグダッド入り。「ここに劣化ウラン弾を落とすな」という意味を込めて「NO WAR」「NO NUKES」という横断幕を作ってデモをした。しかし、日本に帰国してすぐにイラク戦争は開戦。03年5月には「大規模戦闘終結宣言」が出たものの、それからイラクでは長い長い泥沼が始まり、それはISを産む土壌にもなったことは周知の通りだ。

劣化ウラン弾がまた使用されてしまったら。放射性物質がばらまかれ、人体にも環境にも甚大な影響を及ぼすわけである。もちろん、農作物にも。

さて、この3月20日は、そんなイラク戦争から20年。

まさかそのタイミングでロシアによるウクライナ侵攻から1年以上が経っており、台湾有事が煽られているなんて誰が予想しただろう。

いま、岸田政権が推し進めようとしているのは「5年で43兆円」という軍事費の増大だ。このとてつもない額の防衛費だけでなく、敵基地攻撃能力を明記する安保3文書にも反対の声が上がり、各地から「軍拡より生活」の声が上がっているものの、それが政権に届いている気配はない。

そんな中、参議院予算委員会でイラク戦争に関する質問がなされたことをご存知だろうか。

3月23日、れいわ新選組の山本太郎議員による質問である。

イラク戦争から20年と3日というこの日、山本議員が岸田総理に迫ったのは、「今もあの戦争を正義の戦争だと思っているのか」ということだ。

日米地位協定などに触れた後、「総理、イラク戦争、間違いだったと考えますか、いかがでしょう」と切り込んだ山本議員に対し、岸田総理は「当時の日本政府の判断、これは妥当性を失うものではなく、政府として改めて当該判断について検証を行うことは考えておりません」と回答。

誤りではなく、検証する気もないという答えに対して間髪入れずに山本議員は言った。

「そんなズレた感覚を持った人間がこの国を運営してたら、戦争に巻き込まれるんですよ!」

そこから一気に畳み掛ける。

イラクが大量破壊兵器を所有しているということから始まったイラク戦争だが、国連監視検証査察員のハンス・ブリクス氏は、イラクで700回の査察を行ない、大量破壊兵器はなかったという結論に達したこと。それでもアメリカはイラクへの攻撃を開始したこと。イラク戦争に参戦したイギリスは、その後、チルコット委員会で7年かけてイラク戦争を検証し、16年、間違いだったと認めたこと。イギリスのブレア元首相もイラク侵攻は間違いだったと認めていること。ブッシュ元大統領も、イラクに関する情報の誤りを認めていること。オバマ元大統領も「イラク戦争は誤った戦争」と認めていること。バイデン大統領も「イラク戦争への賛成票は誤りであった」と述べていること。オランダ独立調査委員会も「イラク戦争への参戦は国際法違反である」としていること。アナン国連事務総長も「イラク戦争は我々の見地からも国連憲章上からも違法である」と述べていること。

このように、イラク戦争に参加した数々の国、そして外部組織が誤りを認めているのに、岸田総理は現在も、あの戦争を支持したことについて「妥当性を失うものではない」とおぬかしになっているのである。

この国のトップに立つ人の認識が、国際感覚からもズレまくっているという事実。これに先駆けて3月2日、やはり山本議員は「アメリカが間違った方向に行った場合、行動を別にできますよね?」と質問しているのだが、とてもそのような舵取りができると思えないのは私だけではないだろう。

そんな中で進められている岸田政権による大軍拡。

イラク戦争から20年というタイミングで思い出して欲しいのは、あの戦争での民間人死者は20万人にも上るということ、そして日本国内に目を向ければ、イラクに派兵された約5500人の陸上自衛官のうち、21人が在職中に自殺しているということだ(『自衛官と家族の心をまもる 海外派遣によるトラウマ』)。日本にはイラク戦争の検証と同時にイラク派兵の検証もすべき責任があるのに、喉元過ぎればすぐに忘れ、誰も責任を取らないといういつもの光景が広がっている。

なんだか最悪なことばかりだが、3月24日には、嬉しいニュースも飛び込んできた。

第二次安倍政権で生活保護の引き下げが始まり、これを違憲とする訴訟が全国29都道府県で闘われているのだが、この日、青森地裁と和歌山地裁で原告が勝訴したのだ。

これまで16地裁で判決が出ているうち、大阪地裁、熊本地裁、東京地裁、神奈川地裁、宮崎地裁で勝訴となっているのだが、これに青森地裁と和歌山地裁が加わったのだ。

コロナ禍と昨年からの物価高騰で庶民の生活は苦しくなるばかりだが、生活保護利用者はそれに加えて保護費引き下げというトリプルパンチを食らっている状態だ。しかも生鮮食品をのぞく物価高騰は18ヶ月連続で続いている。そんな中、飛び込んできた真っ当な司法判断に思わず胸が熱くなったのだった。

軍事費より先に、お金を回すべきところはこの国には無数にある。

政治はまずはその事実に、目を向けてほしい。

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