「きょう3月14日、東京の桜の開花を…開花を…。もう1度やります!」
東京都内の桜の木の下で、テレビカメラや多くの花見客に囲まれながら、桜の開花について説明する気象庁の男性職員。
口頭で話しつつ、両手や指を大きく動かして様々なポーズをとっている。手話をしながら開花を発表しようとしているようだ。
男性職員は笑顔で仕切り直すと、「東京の桜の開花を発表します」と、今度はスムーズに手話を交えながら言い切った。
大勢の前で手話を使う緊張感がひしひしと伝わってくる発表の様子に、ネット上では「手話通訳者ではなく気象庁の職員自らが手話を使っているのが新鮮。なんだかうれしくなった」「間違えても伝えようと一生懸命な姿を見て、私も手話をできるようになりたいと思った」「ナチュラルに手話を使っていて、いい」などと反響が広がった。
この日、手話を使って東京の桜の開花を発表したのは、東京管区気象台で桜の開花の観測などを担当する地上気象観測班の班長、小林與朗(よしろう)さん。
気象庁では、地震や台風などの発生時に開く緊急記者会見の際には、気象庁職員の説明と同時に、内容を手話に訳す通訳者が出席している。
ただ、桜の開花を発表する際に手話を使用するかどうか規則などに定めているわけではない。同庁の広報担当者によると、今回の手話の使用は「職員個人の努力によるもの」だという。
ハフポスト日本版は、桜の開花発表で手話を用いることにした背景を、小林さんに尋ねた。
「あんなに下手な手話でも、思いが伝わる」
小林さんが手話を学び始めたのは、約30年前に遡る。
「30年ほど前になりますが、手話に興味があり、市民講座を受講したことがありました。ですが、仕事の都合で数回しか参加できませんでした。
それ以来、手話を使う機会はあまりなかったのですが、最近はYouTube上の手話の(講座の)動画を見て、再び学んでいます。
覚えることが苦手なので、同じ動画を繰り返し見て覚えるようにしています」
ほとんど独学の手話で、桜の開花を発表した。
「東京の桜の開花発表では報道陣も多く集まるので、1人でも多くの人に(開花を)伝えたいと思い、手話を交えて発表しました」
実は、小林さんが初めて手話を使いながら桜の開花を発表したのは、今回ではなく1年前の2022年3月だったという。
「昨年は新型コロナウイルスの感染対策でマスクを着用して開花を発表しました。今年はマスクを外していたので、より緊張感がありました。
テレビカメラを通じてだけでなく、現地に見に来ていただいた方にもわかるように、大きな声とゆっくりめの手話で開花を発表するように心がけました」
桜の開花発表で初めて手話を使ってから1年。この間、人気のテレビドラマで主要な登場人物が手話を使うなどして、手話への関心は高まりを見せた。
「昨年も手話を交えて開花発表をしましたが、今年は一段と大きな反響があり、とても不思議な感覚です。
あんなに下手な手話でも、思いや、何かが伝わる。手話を学んでみたいと思う人が増えたらうれしいです」
来年も桜の開花発表に手話を用いる予定はあるのだろうか。
「来年の桜の開花を発表する担当者が誰になるのかは、まだわかりません。
ですが、もしも私が担当することになったら、2022年や2023年と同じく、手話を使いながら発表したいと思います」
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉