「裁判所の見解で本当に学校の教育が成り立つのか」と原告の公立小教員。最高裁が上告棄却、残業代支払い認めず

「教員の業務は増える一方だ。担任がクラスの子ども1人1人のことを考える余裕すら奪われている」(原告)

「突然の知らせに唖然とした。裁判所には、教員が長時間労働を強いられる現状を厳しい目で見てほしかった」

3月8日夕、埼玉県の公立小学校に勤める男性教員(64)は、弁護士から届いたメールに肩を落とした。

教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして約240万円の賃金を支払うよう、男性が埼玉県に求めた訴訟について、最高裁判所が上告を棄却したとする資料が添付されていたという。

1審・さいたま地裁判決に続いて男性の請求を退けた東京高裁の判決が確定し、男性の敗訴が決まった。

2022年8月、東京高裁は原告の訴えを退けた。2023年3月に最高裁は原告の上告を棄却し、男性教員の敗訴が確定した
2022年8月、東京高裁は原告の訴えを退けた。2023年3月に最高裁は原告の上告を棄却し、男性教員の敗訴が確定した
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「裁判所の見解で本当に学校の教育が成り立つのか」

公立校の教員の月給に4%(「教職調整額」)を一律に上乗せして支給する代わりに、残業代は支払わないーー。1971年に制定された「給特法」は、教員の給与についてそう定めている。

ただ、同法では、▽実習▽学校行事 ▽職員会議▽非常災害などに必要な業務ーーからなる「超勤4項目」以外の残業を命じてはならないとしている。

男性は、超勤4項目に当てはまらない業務による時間外労働の分の残業代を、労働基準法に基づいて支払うよう訴えた。こうした時間外労働が2017年9月~2018年7月の期間、月平均60時間分の残業に上ったと主張していた。

東京高裁は2022年8月に下した判決で、教員の職務や勤務形態の「特殊性」に触れ、「教員の自主的で自律的な判断に基づく業務と、校長の指揮命令に基づく業務が日常的に渾然一体となり、正確な峻別は困難」と指摘。

その上で、教職調整額が支給されていることや、「厳密な時間管理を前提にできない」とする教員に労働基準法の賃金制度は「なじまない」ことを理由に、残業代の請求を退けた。

男性は上告。最高裁第2小法廷は2023年3月8日付の決定で、「裁判官全員一致の意見」として、男性側の主張は上告するための理由に当たらないとの見解を示し、棄却した。

男性はハフポスト日本版の取材に、「学校現場の教員の業務は管理職に適切に管理されないまま、増える一方だ。今や担任がクラスの子ども1人1人のことを考える余裕すら奪われている」と説明。

さいたま地裁の判決では、時間外勤務の労働時間に保護者への対応や児童のノートの添削などが含まれず、翌日の授業準備については「1コマ5分」しか認定されなかった。こうした点を踏まえ、「裁判所の見解に則ることで本当に学校の教育が成り立つのか疑問。国が現状を改善する必要があると話した。

給特法をめぐり、文部科学省は2022年に有識者会議を設置。今後、教員の勤務実態の調査結果をまとめた上で、給特法の見直しについて議論する方針だ。

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉

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