2015年に採択された持続可能な開発目標SDGs。2030年の未来を見据えて設計された目標に対し、現在の日本は、環境整備が整い、サスティナブルアクションのPDCAを回していく“SDGs2.0時代”にあります。
このフェーズで重要なのは、先駆者から学ぶ視点と、具体的アクションへと落とし込む実践の場。この2つを実現する場として、Makaira Art&Design主催の 「ザ・ソーシャルグッドアカデミア」の第5回が開かれました。
第5回は、ザ・ソーシャルグッドアカデミアとハフポストがコラボした特別なトークセッション。
株式会社LIFULL 執行役員CCO・川嵜鋼平(かわさき こうへい)さんと、フードロス削減に取り組む株式会社ロスゼロ 代表取締役・文美月(ぶん みつき)さんをお迎えし、「共創」をテーマにセッションを繰り広げました(ファシリテーション:ザ・ソーシャルグッドアカデミア 代表・大畑慎治、ハフポスト日本版 プロデューサー/エディター・中村かさね)。
事業を通じてサステナブルな社会のあり方を模索しつつ、ビジネスとして成立させるにはさまざまな困難があります。「社会に必要だから」と割り切って身を切るのではなく、きちんと利益を立てる。そこにステークホルダーを巻き込み、拡大していく━━。ビジネス的な成功もおさめている2社に、事業評価の姿勢や事業拡大のコツを聞きました。
“論語と算盤”の両面から
株式会社LIFULLは、主力事業である不動産・住宅情報サイト運営以外にも、「世界80億人の一人ひとりの暮らしや人生を、安心や喜びで満たしていくこと」の実現を目指し、さまざまなソーシャルグッドビジネスを開発しています。
LIFULLのブランド・デザイン・マーケティング・コミュニケーションの責任者である川嵜さんは、企業が社会課題に取り組む際に大切なのは「SayとDoに裏表がなく、一貫性があること」だと提示します。
「まず“Say”で、“今、企業が世界をどうみているのか”を伝えていくことが重要です。無責任なメッセージを投げかけたり、実現できない未来を描いたりしてはいけません。そして、大切なのは“なぜ、私たちがこの課題に取り組むのか?”に答えられること。そのブランドコミュニケーションと合致する事業活動(Do)を遂行します」(川嵜さん)
会社を主語とする事業活動では、成果や利益を度外視することはできません。「基本的にはどれだけ小さなプロジェクトでも収益を上げるようにKPIマネジメントしています」と川嵜さん。
「企業なので当然ビジョンだけではなく、“論語と算盤”の両面から事業運営しています。社会課題解決のアクションは、直接的な売上だけではなくグループ全体に対して好意を抱いていただけるような副次的な効果もあるんです。なので、“実際の投資額に対して、どのくらいブランド認知が上がったのか”を間接的な効果として数値的に見ながら運用しています」(川嵜さん)
徹底した情報開示の理由は…
ソーシャルビジネスでは、透明性が重要です。フィリピンのコーヒー農家の慢性的貧困問題に働きかけるLIFULLの「PROUD LIBERICA COFFEE SYRUP」は、あらゆる側面から高い透明性が担保されています。商品紹介ページでは、シロップの原材料や産地、原料となる廃材の買取価格や製造開発流通コスト、農家の利益まですべてを開示。消費者は自分の購買行動が見知らぬ生産者や経済とつながっていることを実感できるのです。
詳細に情報開示を行っているのは、目の前の課題解決だけでなく、社会全体の前進を見据えているから。その理由を、川嵜さんは次のように話します。
「あらゆるステークホルダーが幸せになれるアクションを起こすため、情報の開示に踏み切りました。1社だけが収益を上げるような資本主義的な考え方は、社会課題を解決していくベクトルとは違う方向にあるのではないでしょうか。透明性を追求することで、草の根的に広がり、結果的に社会課題の解決につながると考えています」(川嵜さん)
さらに踏み込んだ「開示」を目指すのは、食品ロス問題にフォーカスしている株式会社ロスゼロ。廃棄されるはずだった食品を詰め合わせて販売する「ロスゼロ不定期便」やECサイトでは、商品が食品ロスになってしまった理由が明示されています。
今でこそ、次々と取引先を開拓しているロスゼロも、起業したばかりの2018年は、「食品ロスなんてしていないよ」と門前払いの連続だったと言います。そこにある問題自体を「ないもの」にされているような反応だったそう。ソーシャルビジネスに対してのネガティブなイメージがあったのではないか、と文さんは振り返り、「“安売りする業者”だと思われていたんですね。ブランド毀損はしませんと訴えても耳を傾けてもらえませんでした」と語りました。
信用づくりの社会ブランディング
状況を打破するために文さんが最初に取り組んだのが、信用作りのためのブランディングでした。
「ある自治体へ突撃訪問したんです」と、文さんは笑いながら懐古します。公的機関との提携実績があれば、企業も信頼してくれるはず。そう信じ、環境省や農林水産省、消費者庁など自治体と話し合いを重ね、大阪府の食品ロス削減推進パートナー企業に認定されたり、東大阪市と包括連携協定が実現したりと、信用を獲得していきました。1つの百貨店との取引がスタートすると、その後の展開はずっとスムーズになったと言います。
「大きな社会課題は、1社だけで抱え込むのに限界がある」。だから、そこから、踏みとどまっている人々の手を引いて活動への参加を促すことが不可欠なのです。
「とにかくやってみる、それが一番大事」
他社と複数の商流を共創できたことに加え、コロナ禍もロスゼロの事業拡大に寄与しました。なんと2019年から業績が約20倍に成長。新型コロナウイルスの感染拡大が、食品業界に大打撃を与えたなか、どうしてロスゼロは世界的危機を勝機へと転換できたのでしょうか。
「販路を失った農家や企業が続出したり、物流の縮小により輸入品の売れ残りが多発したり……コロナ禍は食品ロスを大量に生み出してしまったんです。一方で、ステイホームで食べることを楽しみにしていた消費者に、“どうせ買うなら誰かが助かるような消費行動がしたい”との思いが芽生えました。その結果、エシカル消費という言葉を知らない人へも事業が拡大したと感じています」(文さん)
ロスゼロ定期便で月5、6トンもの食品ロス削減に貢献するなど、利益だけでなく着実に社会課題解決を実現している文さん。「これからソーシャルビジネスを始める人に、アドバイスするなら?」との質問に、「まずはやってみる、それが一番大事です」と断言。
実際、ロスゼロの最初の一歩は、クラウドファンディングでした。広告費を抑えて実施できる小さな一歩でしたが、テストマーケティングとして得られる情報が多いのに加え、認知を獲得した状態で本リリースを迎えられるメリットもあったそうです。
大手企業からソーシャルビジネスに関わっている川嵜さんは、文さんならではの事業開発に、次のようにコメントしました。
「事業をつくる際は、しっかり計画書をつくって、キャッシュフローとして単月ごとにどう管理していくかを考えがちです。売れるかどうかわからないけど、いったん複数のバリエーションをつくり、スモールテストをして、そこでポジティブな反応があったものを商品化する……その流れを、スピード感もってやられてきたのが文さんの強みですね」(川嵜さん)
小さくはやくPDCAを回す、とにかくやってみる━━。
その繰り返しが、現在のロスゼロを作り上げたのでしょう。
「ロスゼロを起業する前は“とにかく何か支援がしたい”という気持ちで、発展途上国でアンケートをとったり、サンプルを作って反応を見たり、小さなアクションをたくさん重ねました。常に“これをやったら、次はどうなるのかな?”と次の一手を考えながら動き続けてきて、その積み重ねの結果が今だと思います」(文さん)
(執筆:野里のどか、編集:黒木あや、毛谷村真木/ハフポスト日本版)