LGBTQ当事者や、法律上の性別が同じふたりの結婚(いわゆる「同性婚」)の法制化をめぐり、「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜総理大臣秘書官について、岸田文雄首相は2月4日、「言語道断」として更迭した。毎日新聞やNHKなど報道各社が報じた。
首相官邸でオフレコを前提にした取材に対するもので、荒井氏は「同性婚なんか導入したら、国を捨てる人も出てくる。首相秘書官室全員に聞いても同じことを言っていた」などと発言。
性的マイノリティらが生きやすくなる法整備を目指す「LGBT法連合会」は同日、声明を発表。「当該秘書以外の首相の『秘書官室全員』がそのような認識であるとすれば、極めて深刻な状況であり、G7議長国として国際的に日本の立場が問われる発言であると指摘せざるを得ない」とし、「当該秘書官が発言を撤回した今後も、秘書官室の全メンバーはもとより、首相の見解が問われて然るべきである」と指摘した。
◆更迭までに何があったのか
毎日新聞などによると記者団は、1日の衆院予算委員会で、岸田首相が同性婚の合法化などについて「社会が変わっていく問題だ」と述べたことについて、荒井氏に質問。荒井氏は「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」などと発言した。
報道各社が報じ批判が寄せられると、荒井氏は「誤解を与えるような表現をして大変申し訳ない」と陳謝。岸田首相は記者団に「大変深刻に受け止めており、秘書官の職務を解く判断をした。本人からも辞意があった」と述べ、荒井秘書官を更迭した。
LGBT法連合会は、性的マイノリティに関する意識調査の結果をもとに「社会的な嫌悪感は急速に改善しつつある。秘書官の発言は、社会の多くの人が適切と考える認識とも大きく乖離するものである」と指摘。政策意思決定層にある人物が差別発言を行うのは「社会における法規範の遅れに大きく起因している」との考えを示し、「差別禁止法をこの国会で制定すべきである」と求めた。
◆LGBT法連合会は差別禁止法の制定求める
LGBT法連合会の声明全文は以下の通り。
2023年2月3日、荒井勝喜首相秘書官は、性的マイノリティや同性婚に関連して「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言し、同性カップルの権利保障をめぐって「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」と発言したと報じられた。
そして当該秘書官の更迭に関して報じられている。しかし、当該秘書以外の首相の「秘書官室全員」がそのような認識であるとすれば、極めて深刻な状況であり、G7議長国として国際的に日本の立場が問われる発言であると指摘せざるを得ない。当該秘書官が発言を撤回した今後も、秘書官室の全メンバーはもとより、首相の見解が問われて然るべきである。
嫌悪感を持つ人の多寡によって人権保障が揺らぐべきではないことは言うまでもないが、その上で、科研費に基づく無作為抽出の「性的マイノリティについての意識:2019(第2回)全国調査」報告会資料によれば、近所の人が「同性愛者」であった場合に「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」との回答は27.6%、「性別を変えた人」であった場合に「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」との回答は24.4%、いずれについても回答者の約7割以上が「嫌ではない」「どちらかと言えば嫌ではない」と答えており、2015年第1回調査と比べ、社会的な嫌悪感は急速に改善しつつある。秘書官の発言は、社会の多くの人が適切と考える認識とも大きく乖離するものであることを、改めて指摘する。また、こうした時代錯誤の認識こそが性的マイノリティの自死未遂率の高さや「異次元の少子化対策」や仕事と育児の両立等の諸課題に対して十分に対応できないことの原因であると指摘する。
今年は日本がG7サミットの議長国となる年であり、各国から性的マイノリティ当事者である要人や、関係スタッフも多く来日する。当事者を「見るのも嫌だ」との認識を首相の秘書官、秘書官室全員が持っているとすれば、G7各国からどのように見られるかは明白である。仮にそのように各国のサミット参加者を眼差しているとすれば、G7から放逐されても文句の言えない大きな国際問題であり、首相はもとより、他の秘書官室メンバーの認識を、改めて確認する必要があるのではないだろうか。
今回の発言のような認識を日本の政策意思決定層が持ってしまうのは、ひとえに社会における法規範の遅れに大きく起因していると考えることから、当会は改めて性的指向・性自認(SOGI)による差別禁止法の必要性を確信する。G7サミットに向けて、岸田首相は、2022エルマウ・サミットの首脳コミュニケで国際的に確約したことを実現するため、差別禁止法をこの国会で制定すべきである。