「女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」
「女性っていうのは競争意識が強い」
「女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないで困るといっておられた。だれが言ったとは言わないが」
「私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。(中略)我々は非常に役立っております」
これは2年前の2月3日、当時東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会会長だった森喜朗氏による、日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会での発言です。森氏の発言に対し、その会場では笑いが起きたと報道されました。
「ジェンダー」というと、一部の人の関心事、という空気がまだまだ根強かった2021年。しかしこの発言に対しては、性別も世代も超えて多くの人たちが一斉に疑問、批判の声を上げました。
「まさに女性蔑視」「こういう空気のなかで女性は排除されてきた」という声や、「大切なことは仕事の後の飲み会で決まる。子育てがあり参加ができず、朝会社に行くと大切な決定が夜のうちに覆っていたこともある」といった具体的なエピソードもSNSに溢れました。
それだけでなく、「周囲にいる女性や自分の娘たちがこういった発言にこれ以上晒されて欲しくない」という男性の声も多く聞かれました。
無意識に女性蔑視を露呈する“ミニ森喜朗”が社会のあちこちに、そして私たちの身近にいるということ。私たちがどれほどわきまえさせられてきたのか、ということ。
悔しいと思いながらも、この社会で生きていくために黙るしかなかった経験。薄々おかしいと思いながらも、しんどそうな同僚に声をかけられなかった経験。もしくは、麻痺して違和感を持つこと自体をやめた話。
それぞれの思いや経験が可視化されるきっかけになりました。
感じたモヤモヤを無視せず、向き合ったら…
私たちも当時、「今の時代にこんな発言をしてしまう人がいて、その人が国際的なオリンピックというイベントのトップなのか」という衝撃に打たれた大勢のうちのひとりでした。
しかし、このままSNSで「問題だ」と言っただけで放置したら、きっとこれまでと同じように、明後日には忘れられる。このSNSで広がる怒りの声を可視化して、本人や組織委員会まで届けたい。
誰かが署名とか動いてくれるかな?でも誰もやらなかったら?またいつもと同じ繰り返し?それは耐えられない。
オリパラ組織委員会とか元首相を敵に回すのは怖いけど、誰かがやった方がいいなら今動ける自分たちでやった方がいいのではないか、と翌日にはオンライン署名活動を始めました。
いざ恐る恐る署名を始めてみると、「次の世代にはこれを引き継ぎたくない」という共感が広がり、15万7226筆が集まりました。
みなさんが想いを寄せてくださった15万7226筆の署名とその後の変化は、「声を上げたら、変わるかも」という実感をもたらしてくれたように思います。
ミニ森喜朗がそれぞれの職場や生活にいる、これは差別的な考えを持つ個人の問題だけではなく社会の構造の問題。
だけど、感じたモヤモヤを無視せず、向き合ったら、仲間がいて社会が変わることがある。
この日本社会の男女不平等にモヤモヤを持つ私たちが、地域や世代を越えて手を繋げば、今の社会に想像できないくらいの大きな変化を起こせるのではないかという希望を持つことができました。
「ジェンダー平等」流行りで終わらせないために
2021年末、「ジェンダー平等」が新語・流行語に選出されました。しかし、森発言の署名活動が落ち着いた頃から考えてきたのは、これをこのまま流行りで終わらせてはいけない、ということです。
そこで2021年夏、私たちは「政治分野のジェンダー不平等、私たちの世代で解消を」と掲げ、FIFTYS PROJECTという新しい取り組みを始めました。
これは、2023年4月統一地方選挙を契機に、20代30代の女性、Xジェンダー、ノンバイナリーの立候補を呼びかけ、一緒に支援するムーブメントです。日本社会のあらゆる不公平、不条理、人権の守られない状況を根本から変えるためには、政治やあらゆる意思決定の場のジェンダーバランスの平等、包摂性の達成が不可欠です。
現在、統一地方選に向けて一緒に応援したい25名の立候補予定者が決まっています。政治家の女性比率は20代・30代でも改善していない状況を変える一歩を始めたい、と立ち上げましたが、私たちにとって、立候補を決めた1人1人が希望に見えています。
そんな希望を現実にするために、私たちができることはたくさんあります。
立候補する、立候補する人を応援する投票する、ボランティアに参加する、SNSをフォローする、周りの人と話してみる。
それぞれの一歩踏み込んだアクションの先に、変わっていくことがあるはずです。
私たちもたくさんの種まきをみんなと一緒に続けていきたいです。(3月8日の国際女性デーに向けても、イベントなども企画しています。お楽しみに!)
“Be the change you want to see in the world”
それぞれの場所で、一緒にがんばりましょう。
#わきまえない女 で生きていこう!
(文=能條桃子・福田和子、編集=中田真弥)