性犯罪に関する刑法改正で、性的な部位やわいせつ行為の盗撮などを取り締まる「撮影罪」の新設が、法務省の法制審議会がまとめた骨子案に盛り込まれた。盗撮は現在の刑法に規定がなく、都道府県の条例で規制。処罰が難しい例もあり課題となっていた。
「ここ数年で大きく流れが変わりました。新設されれば子どもたちへのインパクトも大きいでしょう」
問題点を指摘し、2018年から法務大臣に働きかけてきた上谷さくら弁護士はそう評価する。案は今後法務大臣に示され、国会でも審議される。
撮影罪が盛り込まれた背景や、今後の課題について聞いた。
盗撮は都道府県ごとの条例で対応。条文にばらつき、処罰できないことも
案に盛り込まれた「撮影罪」は、性的な部位やわいせつ行為の盗撮、第三者への提供などが処罰対象。わいせつなものではないと誤信させて性的な姿を撮影することなども含まれ、盗撮や撮影は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、不特定多数に提供した場合などは5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金となる。
盗撮は現在、都道府県ごとに迷惑防止条例で規制されているが、内容にはばらつきがある。飛行中の航空機内で行われた盗撮行為が、場所を特定できず処罰できないという例もあった。
上谷弁護士が所属する犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)は2018年、「盗撮罪の創設」などをシンポジウムで取り上げ、独自の条文案も作成。法務大臣にも法の整備を訴えてきた。当時は周囲からの反応も薄かったというが、今回法制審がまとめた案には「撮影罪」が盛り込まれ、VSフォーラムが当初作成した条文案より刑も重く設定された。
「ここ数年で、盗撮そのものや、インターネットに盗撮された画像が流れてしまうことに対する意識が大きく変わり、重大なことだと認識されるようになったと感じます。よく数年でここまできたなと思いますね」
盗撮、軽視されがちな面も
「盗撮は、加害者が被害者に直接触れておらず、被害者が気づかないケースもあるため、軽く捉えられがちな面があります」と上谷弁護士は指摘。
しかし、被害者にとっての影響は大きい。上谷弁護士によると、被害者の中には「(盗撮が怖くて)デパートのトイレには入れない」などという人も。性的な画像がインターネット上で広まってしまった人の中には、外を歩いているときに人と目が合うと「自分の性的な画像を見たことがあって、こちらを見ているのではないか」などと感じて外出できなくなった人もいるという。
「特に画像がインターネット上で広まれば、デジタルタトゥーとして残ってしまうこともある。重大な犯罪だという認識がより広まってほしいと思います」
加えて、子どもたちに対する警鐘にもなると考えている。
「子どもたちの間でも、友人の着替えの様子を撮影したり、それをSNSで共有したりすることが面白半分で行われている現状があります。盗撮は刑法で犯罪と規定されている、悪気はなかったでは済まない、ということは子どもたちにとって大きなインパクトがあるのではないでしょうか」
アスリートの性的画像対策は盛り込まれず
残された課題もある。アスリートの盗撮に関しては、議論には上がったものの案には盛り込まれなかった。
アスリートが性的な意図で写真を撮影されたり、SNSでわいせつな加工が施された画像が拡散されたりする被害は多数報告され、2021年には日本オリンピック委員会(JOC)が本格的な被害防止対策に乗り出している。
上谷弁護士は「スカート内の盗撮などと違って、プレーしている姿を見るのはいいのに、なぜ撮影はダメなのか、という問題が生じます。『性的な意図』の有無をどう判断するのか、というのもハードルになるでしょう」と指摘。
しかし、アスリートからも対策を訴える声が複数上がっており、上谷弁護士は今後も対策を訴えていくという。