坂本龍一さん「何も施さず、あえて生のまま提示」。71歳の誕生日、アルバムの発売で紡いだ退院後の歩み

「今後も体力が尽きるまで、このような『日記』を続けていくだろう」。がんと共に生きる坂本龍一さんが、6年ぶりとなるオリジナルアルバム『12』の発売に寄せて語った言葉。
坂本龍一さん
坂本龍一さん
ullstein bild via ullstein bild via Getty Images

日本が世界に誇る音楽家の坂本龍一さんが1月17日、71歳の誕生日を迎えた。

その節目の日にオリジナルアルバム『12』を発売。がんとともに生きる坂本さんは、公式サイトで率直な言葉を紡いだ。

「今後も体力が尽きるまで、このような『日記』を続けていくだろう」と赤裸々に綴っている。

「今後も体力が尽きるまで」

17日に発売された『12』は坂本さんの6年ぶりのオリジナルアルバム。全12曲から構成されていて、その曲名は「20210310」など、当時の日付とみられるシンプルなものとなっている。

坂本さんはアルバムの発売に寄せて、公式サイトに以下のような言葉を綴った。

2021年3月初旬、大きな手術をして長い入院の末、新しい仮住まいの家に「帰って」きた。少し体が回復してきた3月末のこと、ふとシンセサイザーに手を触れてみた。

 

何を作ろうなどという意識はなく、ただ「音」を浴びたかった。それによって体と心のダメージが少し癒される気がしたのだ。

 

それまでは音を出すどころか音楽を聴く体力もなかったが、その日以降、折々に、何とはなしにシンセサイザーやピアノの鍵盤に触れ、日記を書くようにスケッチを録音していった。そこから気に入った12スケッチを選びアルバムとしてみた。

 

何も施さず、あえて生のまま提示してみる。今後も体力が尽きるまで、このような「日記」を続けていくだろう。

坂本龍一  (Ryuichi Sakamoto 12 公式サイトより引用)

「何を作ろうなどという意識はなく」「何とはなしに」とあるように、楽曲の制作意識を持たずに紡いだ音を録音したものと語り、坂本さんはそれを「日記」と表現している。

「がん」と共に生きながら、音を紡ぐ

坂本さんは2014年7月に中咽頭癌の罹患を発表。2015年には山田洋次監督作品「母と暮せば」とアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品「レヴェナント:蘇えりし者」の音楽制作で復帰したが、2021年に直腸癌の罹患を発表し、現在も病と向き合っている。

 

自身の音楽を通じて、社会にメッセージを発信している坂本さん。

 

2022年3月、JR新宿駅南口でウクライナ侵攻反対を訴えるライブイベント『No War 0305』が開かれた際には「こんな理不尽なことが許されていいはずがない。世界中で何億人という人間が注視しているのに止められないもどかしさ。多くの人が何かできることがないかともがいている。僕もその一人だ」とコメントを寄せていた。

 

また同10月には、2022年12月11日に全世界に向けてピアノ・ソロコンサートを配信することを発表したことが話題となった。

 

体調面などを考慮して、配信されるコンサートは生演奏でなく、演奏を事前に収録したものだった。

 

収録が行われたのは東京・NHK放送センターの509スタジオ。坂本さんにとっては「YMO」として活動していた1980年代に何度も演奏や公開収録を行った思い出の場所とだったという。

 

坂本さんはコメントで「ライヴでコンサートをやりきる体力がない――。この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」と語っていた。

 

かつての「仲間」の死去に心境示す

坂本さんは1月15日にTwitterを更新し、グレー1色の画像を投稿した。

 

YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のメンバーでミュージシャンの高橋幸宏さんの訃報が伝えられて以来初めての投稿で、言葉こそないものの、自身の心境を示すかのようなツイートだった。

pic.twitter.com/LjiZy3K4n0

— ryuichi sakamoto (@ryuichisakamoto) January 14, 2023

坂本さんの音楽は2023年も注目を集めている。

『万引き家族』などで知られる是枝裕和監督が大ヒット映画『花束みたいな恋をした』などを手がけた脚本家の坂元裕二さんとタッグを組み制作した映画『怪物』(2023年6月2日公開)では、音楽を担当。期待が寄せられている。

注目記事