食品、電気、ガス、洋服……。2022年は身の回りのあらゆる物の値上げが相次いだ。総務省が12月23日に発表した11月の消費者物価指数(2020年=100)によると、天候要因などで値動きが大きい生鮮食品を除く総合指数は103.8で、前年同月から3.7%増加した。2021年9月から15カ月連続で上昇していることになる。物価上昇はいつまで続くのか。経済アナリストの森永康平さんに話を聞いた。
「来年の春ぐらいまでは続くと思うが、上昇のピークは近いとみている。5〜6月ごろからはデフレスパイラルに入ってしまうのではないかと心配しています」
森永さんはこう指摘する。理由として、物価の変動を反映した「実質賃金」が下がり続けていることや一時急速に進んだ円安が落ち着いてきていることを挙げる。
帝国データバンクの試算では2022年は11月末までに2万822品目が値上げされ、平均値上げ率は14%となっている。一方、実質賃金は厚生労働省が毎月発表する毎月勤労統計調査によると、2022年10月まで7カ月続けて前年同月比で減少している。物価上昇に賃金上昇が追いついていない状態だ。
森永さんはスーパーなどが独自に展開し、できるだけ値上げをしないようにしているプライベートブランド(PB)の好調さに注目する。調査会社インテージがスーパーの販売情報を調べたところ、大幅な値上げが続くキャノーラ油の購入額に占めるPBの割合は35.5%(2021年1月)から50%(2022年7月)、食パンは13.9%から16.8%と増えている。
森永さんは「少しの値上げのうちは消費者も我慢して買うが、そのうち買えなくなってくる。すでに価格が比較的安いPBに流れ始めている」と指摘する。流通大手イオンはPB「トップバリュ」の食品と日用品計約5000品目の大半で価格を据え置いていることが奏功し、2022年3〜8月期決算における食品主要カテゴリーの売上高は3割増となっている。「企業もこれ以上値上げしたら買ってもらえなくなるという怖さを感じている」と話す。
今後は資本力のある企業の中には値下げに踏み切るところが出てくるとみる。「資本力があったとしても世界的には原材料価格もエネルギー価格も上がっているので、企業は人件費や設備投資を抑えることになる。そうなると、賃金を上げなくなり、ボーナスを減らし、非正規雇用を増やすということにもなりかねない」。家計が苦しくなって財布の紐が固くなれば、企業はますますの値下げに追い込まれるという流れだ。
消費者の立場からだけみると、物価上昇が落ち着くことはありがたいことのようにも思える。だが、森永さんは「毒饅頭で、デフレの怖さです。うれしいのは一瞬だけ。給料が上がって物の値段が上がればいいが、物の値段が下がることに人件費削減がセットでついてくるとなると地獄です」と話す。