『風の谷のナウシカ』の「幻のテーマソング」がこれだ。大物たちの秘話を追った

安田成美さんが歌手デビューした『風の谷のナウシカ』シンボル・テーマソング。どんな曲だったのでしょう?
「風の谷のナウシカ」より
「風の谷のナウシカ」より
© 1984 Studio Ghibli・H

宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』は日本のアニメーション史に残る不朽の名作ですが、劇中では使われなかったシンボル・テーマソングが存在することをご存知でしょうか。

その曲は、1984年の劇場公開時につくられたこちらの特報で確認できます。この貴重な特報は、2020年夏に行われたリバイバル上映企画にあわせて東宝が公開しました。

劇中のシーンにあわせて、「風の谷のナウシカ 白い霧が晴れたら...」とつづく歌が流れていることがわかります。

しかし、この歌が劇中で使われることはありませんでした。一体、この曲は何なのでしょうか?

安田成美さんら豪華メンバーで作られた曲

この曲を歌っているのは、現在も俳優として活躍する安田成美さん
安田さんは『風の谷のナウシカ』の「イメージガール」コンテストで選ばれ、この主題歌で歌手デビューしました。
安田成美さん
安田成美さん
時事通信社

作曲は細野晴臣さん、作詞は松本隆さんが手掛けました。細野さんと松本さんは1970年代のフォークロックバンド・はっぴいえんどのメンバーとして活躍し、今も日本の音楽シーンに大きな影響を与えるミュージシャンです。

楽曲はCDシングルとして徳間ジャパンから販売されており、スタジオジブリ作品の主題歌・挿入歌を網羅したベストアルバム『スタジオジブリの歌(増補盤)』にも収録されています。
ちなみに、スタジオジブリは2020年2月にサウンドトラックなど38作品を音楽配信サイトに解禁しており、安田さんが歌う主題歌を含めたジブリ楽曲をSpotifyなどで聴くことができます。

本編では使われなかった

安田成美さんが歌う「風の谷のナウシカ」シンボル・テーマソングは、予告CMなど、映画のプロモーションをメインに使われました。安田さんは音楽番組などでもこの曲を披露したといいます。

しかし、本編でこの楽曲が使われることはありませんでした。

作曲を手がけた細野さんは、のちに坂本龍一さんとの対談で、以下のように振り返っています。

坂本龍一 いきますか。僕は安田成美さんが歌っているオリジナルが好きだからカバーしたんですけど……。

細野 僕も好きだった。

坂本 宮崎駿監督は気に入らなかったという、いわくつきの。

細野 監督には一回会ったんですよ、作る前に。話したの、ナウシカについて。絵コンテもあったので。曲をつくるにあたって、いろいろ聞いて、これは東ヨーロッパの感じですかね? とかね。なんかピントがはずれていたのかもしれない(笑)。趣味が合わなかったんだろうね。映画のなかでは安田成美バージョンは使われなかったんだな。

坂本龍一|坂本龍一 × 細野晴臣(3)」2015年3月9日OPENERS掲載

本編の音楽には、映画公開に先駆けて販売されたイメージアルバム「鳥の人」を手がけた久石譲さんが起用されました。これが久石譲さん・宮崎駿さんという“黄金コンビ”の初タッグとなり、久石さんはその後、素晴らしいジブリ音楽を生み出しつづけました。

テーマソング企画には、宮崎駿さんの弟が関わっていた

鈴木敏夫さんの著書「ジブリの仲間たち」(新潮社、2016)によると、このシンボル・テーマソングを使ったプロモーション企画は、『ナウシカ』を徳間書店と共同製作した博報堂が提案したといいます。
当時、宮崎駿さんの弟が博報堂に勤めており、鈴木さんは「いろいろなプロモーション企画に一役買ってくれました」と振り返っています。

「彼女にはイメージソングも歌ってもらい、徳間ジャパンからレコードを発売しました。レコードのプロモーションで彼女がいろんなメディアに出ると、それが映画の宣伝にもつながるーーメディアミックスの走りのようなことを、このときすでに始めていたんです」

鈴木敏夫さん著書「ジブリの仲間たち」(新潮社)より

安田さんの澄んだ歌声や、耳に残るメロディーラインが印象的な「風の谷のナウシカ」シンボル・テーマソング。
ぜひ、フルバージョンでも聴いてみてくださいね。
「風の谷のナウシカ」
「風の谷のナウシカ」
© 1984 Studio Ghibli・H

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