「今朝、3歳の息子が『いろんな家族があるんだよ』と教えてくれました。私にできること、考えて行動していきたいと思います」
「マジョリティが持つ特権。これに気づいて、みんなで誰もが生きやすい社会をつくっていきましょう」
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10月11日は、自身のセクシュアリティをカミングアウトするLGBTQ当事者らに共感し、応援する「国際カミングアウトデー」。
ゲイである自身の経験も踏まえ、多様な性について発信するユーチューバーのかずえちゃん(@kazuechan1101)が、LGBTQを理解し支援する「アライ」の思いをしたためた動画「LGBTQ ALLY100人からのメッセージ」を公開した。
LGBTQ当事者が身近にいると伝え、多様な性の人が生きやすい社会を作ろうと、2017年から毎年「LGBTQ100人のカミングアウト動画」を投稿してきたかずえちゃん。
今回初めてアライに光を当てたのは、過去5年の撮影の中で、顔を隠しながらも勇気を持って動画に出てくれた中高生が多くいたことが背景にある。
かずえちゃんは「バレたらどうしようと戸惑いながら生活している子は、今もとても多いように感じます」「約30年前、ゲイだと自覚した小学5年生の時と比べ、いろんな制度は増えているものの、子どもたちが置かれる状況はあまり変わっていないと痛感しています」とした上で、「LGBTQ当事者に、いつまで『私たちはここにいる』と声を上げさせる社会なんだろうと思いました」と語る。
声を上げるのが当事者だけでは限界があると感じたことが、アライ動画を企画したきっかけの1つだといい、「撮影の中で、アライの人が『そのままがいいよ』といった声を上げることで、勇気をもらえる当事者が多くいるのではと感じました。動画を通し、アライが声を上げることの重要性、誰もが誰かのアライになれることを感じ取ってもらいたいです」と話す。
◆いつまでLGBTQ当事者に声を上げさせる社会?
かずえちゃんがユーチューバーとして活動を始めたのは2016年。きっかけの一つが、自分がゲイであることを受け入れられず、孤独を抱えていた子どもの頃の経験だ。そんな自分を救ってくれたのが、24歳の時に自身がゲイだと伝えた時、父親がかけてくれた「幸せなら、それでいいよ」という言葉。30歳の時から約3年間暮らしたカナダでは同性婚が認められており、街で男性同士が当たり前に手を繋いで歩いていた。
電通ダイバーシティ・ラボの2020年調査によると、LGBTQ当事者は全体の8.9%。左利きの人に近い割合であるものの、根強い差別や偏見などから、日本では多くの当事者は自身のセクシュアリティを隠して生きている。だからこそ「一人じゃないよ」と伝え、若い世代が昔の自分のように悩まなくて良い社会を作っていきたいと考えた。
発信する中で「初めてゲイの人を見た」といったコメントが多く寄せられ、LGBTQ当事者がもっと身近にいることを可視化したいと思うようになり、2017年から「LGBTQ100人のカミングアウト動画」の撮影を決めた。
1年目は友人らに動画に出てくれる当事者を紹介してもらい、自宅やプライドイベントなどで撮影。100人を集めるのに苦労したが、顔を出して思いを語るLGBTQ当事者の姿は大きな反響を呼び、動画は30万回以上再生された。2、3年目はSNSなどで出演者を募集。動画に出たい人は次第に増え、東京や大阪、福岡など全国数か所でさまざまな思いを動画におさめた。
新型コロナウイルス禍に入った4年目の2020年が転機になった。全国をまわって撮影することが難しくなり、当事者に自分で撮影した動画を送ってもらってまとめる形にした。オンラインの形にすることで、動画に出たいという地方の中高生や大学生が一気に増えた。
それまで主要都市で行っていた撮影に来ることは、金銭面の問題や、カミングアウトしていない親に「何しに行くの?」と聞かれるなど、さまざまなハードルがあることを改めて思い知った。これまでも想像はしていたが、実際に話を聞く中で「こんなにも誰にも言えずに悩む、若い世代の当事者がいるんだな」と痛感した。
また学生は、首から下だけを写して動画に出る人がほとんどだった。「カミングアウト動画」という名前で顔を出していない人が多いことに迷いもあったが、なぜ顔を出せないのか、現状を知ってほしくてそのまま投稿した。
自分が学生だった時に比べ、制服の多様化やパートナーシップ制度の普及など社会は少しずつ変化しているものの、「特に子どもたちは依然として、カミングアウトするハードルが圧倒的に高いです。そして生きている社会がとても小さく、そういった現実を感じ取ってもらいたいと思いました」。当事者だけが声を上げ続ける社会には限界があると感じ、今回はアライの思いを可視化する動画を作ると決めた。
◆「アライって何?」誰もが誰かのアライになれる
動画に出てくれるアライをSNSで募集する中で、「自分がアライと名乗って良いのか、動画に出ても良いのかわからない」といった内容のメッセージが多く寄せられた。
アライの由来は、英語で「味方」を表す「Ally」。LGBTQ当事者を理解し、支援する人という定義づけがされているが、かずえちゃんは「言語化が難しく、アライというのはいったいなんだろうと疑問を持ち続けてきました」とした上で、「多様な性の人が生きやすいように何かしたいなとか、どんなことができるかなとか、そういう思いを持ち続けること。そして常にこれで良いのかなと自問自答し揺れ動くことが、アライなのかなと今は思っています」と話す。
アライになること自体は、ハードルは高くないと語るかずえちゃん。だがアライを名乗るのなら、しっかりと勉強してほしいとも思うという。
「表面的な知識を得るだけではなく、LGBTQに関する記事についたコメントを見たり、プライドイベントの時だけでなく政治家の差別発言などの困難があった時こそ声を上げたりしてほしい。アライを名乗る人が当事者を傷つける社会は、嫌だなあとも思います」
またアライは非当事者として語られることが多いが、かずえちゃんは「LGBTQ当事者という言葉で括られることが多いですが、細かく言うと僕はゲイの当事者であって、トランスジェンダーなどの当事者ではありません。だからこそ、他のセクシュアリティのアライにはなれると思うんです」と話す。
そんな思いを込め、今年は「誰もが誰かのアライになれる」を動画のテーマにした。 撮影や編集の中で、「ありのままのあなたでいいんです」「同じであることが価値であった時代はすでに過ぎ去って、違いは個性であり、強みであり、可能性」といった思いにふれ、自分自身が一当事者として、勇気をもらえたという。
「子どものころ、社会にこんな言葉があふれていたら、もう少し楽に生きれたのかなと、そしてゲイである自分のことを肯定できたのかなと思います。だからこそアライが、声を上げるのは大切なんだなと。一人一人のちょっとした行動と意識が、誰もが生きやすい社会につながるんじゃないかなと感じています」
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>