佐々木ののかさんの新刊『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』(亜紀書房)の刊行を記念して、本屋B&Bでトークショーが行われた。
「推しと雑談━私をケアしてくれる本、だけどケアってなんだろう?」と題して、佐々木さんと文筆家・編集者の青山ゆみこさんが、お気に入りの本を通してケアについて考えた同イベント。そこで挙がったのは、どれもメンタルヘルスに効く、読めば「つらい心がちょっと楽になる」本ばかり。
そんな“しんどい私”をケアしてくれる本を、ふたりのコメントとともに紹介します。
◼️しいねはるか『未知を放つ』(地下BOOKS/2021年)
整体をベースにした仕事をしながら音楽活動をしている著者が、コンプレックスを抱えながら生活に奮闘する様子を綴る。「婚活」「家族」「終活」「分断」「生活」の5章からなるノンフィクション・エッセイ。
「疲れていると、疲れていることはわかっても、自分の欲求はわからなくなりがち。だからこそ、自分の声を聞くことがケアになるのではないかと考えるようになりました。
いろいろな人と話すことを『実験』と呼び、そこで得た気づきを書き留めて、実現したい人生を考える著者のエッセイは、私にはセルフケアのように見えます(佐々木さん)」
◼️山内志朗『過去と和解するための哲学』(大和書房/2018年)
過去をやり直せないとしたら、なぜ人はこんなに過去を思い悩み、後悔するのか━━。哲学者である著者が、過去と和解するための方法を思索する。だれもが抱えているやり場のない「後悔」と向き合い、前を向いて歩くための哲学講義。
「自分を愛することができなかった私がこの本で学んだのは、過去が連なって今があるのだから、過去と仲直りしなくてはいけないということ。
現在は過去から未来への風の通り道で、何もないところには風が吹かない。理解できない過去の自分の言動も、なかったら今の私はないという気持ちで受け入れていかなければいけないと感じた1冊です(佐々木さん)」
◼️斉藤環、水谷緑『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院/2021年)
フィンランド発の精神療法「オープンダイアローグ」のエッセンスを2時間でつかめる、世界初のまんが解説書。開かれた対話とはどんなものか、どうしたら対話を続けられるのか、6編の物語と4章の解説で構成。
「難しそうな対話の手法が、漫画でわかりやすく読める1冊です。友人と実践を始めて1年以上。発言を否定しないなどの対話のルールがある場が自分にあるだけで、安心して心が軽くなります。
しんどかった過去や心のモヤモヤを話したり聞いたりするうちに、他の人の言葉から自分の体験を初めて言語化できることにも気づいたり。やってみてよかったです(青山さん)」
◼️ロン・リット・ウーン『きのこのなぐさめ』(みすず書房/2019年)
最愛のパートナーを失った著者は、喪失の痛みのさなか、ふと参加した講座できのこの魅力に出合う。悲しみの心象風景をさまよう内面世界への旅と、驚きと神秘に満ちたきのこワンダーランドをめぐる旅をつづけ、魂の回復のときを迎える、再生の物語。
「本屋さんや図書館に行くと、気になった本の傾向で、そのときの自分がどんなものを求めているのかわかることがあります。
この本は、ジェンダー、フェミニズムや人間関係の本、性暴力の話を読むのがつらかった時期に手に取った1冊。人類学者である著者の視点から語られるきのこ狩りの知見と、夫を失った妻の視点から綴られるグリーフが交錯する不思議な読後感の本です。装丁もかわいくてオススメです(佐々木さん)」
◼️鳥羽和久『おやときどきこども』(ナナロク社/2020年)
「正しさ」を手放して始める、新しい人間関係を描いた1冊。福岡で小中高生が学ぶ教室を開校して20年、数多くの親子と接してきた著者が、現代の親子が抱える多様でリアルな問題を、子どもたちの生き生きとした語りと鋭い考察から描きだす。
「好きな本のなかにも、自分を繭で包みこんでくれるような本と、殻を破るために心をつついてくれるような本があります。これはその両方の顔を持つ本。
今は“おとな”の自分も、かつて“こども”だった。“大人の自分”と “子どもの自分”が同時に存在してもおかしくない。鳥羽さんの深い語りが、どちらの自分も肯定してくれる1冊です(青山さん)」
◼️稲葉小太郎『仏に逢うては仏を殺せ 吉福伸逸とニューエイジの魂の旅』(工作舎/2021年)
伝説のセラピストと呼ばれる吉福伸逸の軌跡を追ったノンフィクション。精神世界、ニューサイエンス、トランスパーソナル心理学を紹介し、日本の精神文化に多大な影響を与えた鬼才の軌跡を関係者へのインタビューから紐解いていく。
「吉福さんは、セラピーの受け手側の見たくない感情を言葉にして突きつけ、相手がそれを認めざるを得なくなったときに『じゃ、がんばってね』と対話を終わるそうです。
私からすると傷つけているようで怖いのですが、対話を経た人たちは癒やされたり回復したりしていることに、ケアとは何かがますますわからなくなりました。私のケア観が瓦解した本のひとつです(佐々木さん)」
◼️安田登『魔法のほね』(亜紀書房/2022年)
小学5年生のたつきは、ある日「見捨てられた店」という不思議な骨董店を見つける。そこで手にしたのは、3300年以上前の古代文字が刻まれた「オラクル・ボーン」(魔法のほね)。それを読み解いたたつきは、友達二人とともに古代中国へタイムスリップするが…。
「頭の中で考えたことを言葉に置き換える“文字”の誕生により、人間には“心”が生まれたという、文字と心の密接な関係を知りました。この“心”と同時に“不安”も生まれたことも。不安になるのは心があるから。人間の普遍的なものだと理論で理解できて、ほっとしました。児童書なので絵が多くてしんどい大人にもやさしい、わくわく元気になる1冊です(青山さん)」
◼️尹 雄大『つながり過ぎないでいい 非定型発達の生存戦略』(亜紀書房/2022年)
コミュニケーションや感情表現に悩み、人と意思疎通する技術を身につけていった著者。しかし、それは良いこと、正しいことなのだろうか。著者の体験を通して、言語、存在、コミュニケーションを思索する。
「心がモヤモヤしてうまく言語化できない期間、環境の変化に追いつけない期間を、幼虫の身体を一度ドロドロの液体に溶かして蝶になるのをただただ待つサナギの時節になぞらえて、物事が始まる前の『胚胎期間』と表現していることに救われました。
そういうときに過去の私は無理矢理がんばって強くなろうと見ないふりをしてきたけれど、それでもはみ出してくるものが自分らしさだし、弱さを持った自分のままで生きていこうと思わせてもらえる本でした(佐々木さん)」
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「本とは処方箋であり、今の自分を知る診断書でもある」(佐々木さん)、「弱っているときは自分を助けてくれる、怖くない本を読んで、誰かとおしゃべりするような気持ちになった」(青山さん)と語ったふたり。その“推し”本のなかに、あなたの心をそっと包む1冊があるかもしれない。
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