「これまでに経験したことのない台風」と繰り返し警告された台風14号。935hPaという史上4位の記録で鹿児島県に9月18日に上陸し、連休中の日本を縦断しました。
気候変動が進んだ未来では、台風は「少なくなる」一方で「強くなる」と言われています。「現在」と「未来」の2つの時間軸で、台風と地球温暖化の関係を考えます。
1.【現在まで】
・台風の総数は「変化傾向なし」
意外かもしれませんが、台風の発生総数については、この百年で明確な変化傾向はみられません。
地球温暖化をめぐっては、この「現在まで」の「発生総数」のみのデータを持ち出して議論される場合がありますが、データは様々な切り取り方ができるので、色々なデータを見て総合的に考える必要があります。
・強い台風の割合は増加
強い台風の割合は過去40年間で増加していて、勢力がピークに達する緯度が北にシフトしている可能性が高いとされています。つまり、台風の総数は変わっていないが、より北で台風がピークに達しやすくなっているのです。
台風14号は、まさにそれが起こっていました。
台風14号は北緯28.4度まで猛烈な勢力を維持していました。これほどの勢力を維持したままここまで北上したのは、1977年以降で初めてです。
・人為的影響、確信度は高まっている
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、台風がより北でピークを迎えやすくなっている傾向の原因は、気候システムなどの自然変動だけでは説明できません。人間の影響であることについて、データや専門家の見解一致度は中程度とされています。(IPCC AR6 WG1 SPM A.3.4)。
台風の発達メカニズムはまだわかっていないことも多く、地球温暖化による影響の研究も、まだ十分とは言えません。現時点においても「見解の一致は中程度」ですので、まだ詳しい研究が必要な分野です。
しかしながら約10年前は「見解の一致度は低い」とされていたので(IPCC AR5 WG1 SPM Table SPM.1)、当時より確信度は上がっていると言えます。
2.【未来】
・台風は強力・巨大化する予測。確信度は高い
前述したように、IPCCのレポートで現時点での台風の強度に対する人為的影響は「見解の一致度が中程度」とされていますが、将来の台風に関しては、全体的に、もっと踏み込んだ表現がなされています。
非常に強い熱帯低気圧の「割合」と「ピーク時の風速」は地球温暖化に伴い増加すると予測されていて、データや専門家の見解一致度も高くなっています。
しかし、総数が減る一方で、1つ1つの台風は強力になります。
具体的には
・21世紀の末には、強い台風は現在に比べて約6.6%増加
・台風に伴う降水量は約12%増加
・強風域の半径は10.9%程度拡大
・台風の平均強度は5%増加
*IPCC AR6 WG1 Chapter11、JAMSTECなどから
そんな未来にしないために
台風14号がここまで日本に近い場所で猛烈な勢力を維持したというのは、温暖化した未来の片鱗を見ている気さえしました。
台風と温暖化の関係は複雑な研究分野で、多くの研究者がチャレンジしています。近年は、少しずつその関係性が明らかになってきました。
一方で、猛暑との関係についての研究は、何歩も先を行っていて、近年の人為的な温室効果ガスの排出が、猛暑を加速させていることが明らかになっています。
台風に加えて猛暑による影響を考えると尚の事、温室効果ガスの削減が急務と言えると思います。
【文:気象予報士 ・千種ゆり子、編集:中村かさね】