(※この記事には、ミックスルーツの人たちが実際に受けている差別や偏見の実態を伝えるため、差別的・侮蔑的な表現や描写が含まれています。
また、「ハーフ」という呼称には様々な議論がありますが、日本社会で広く浸透し、多くの当事者たちの日常生活に影響を及ぼしていることを踏まえ、記事中でも使用しています)
「純粋な日本人じゃないな」
「ガイジンさん、日本語すっごい上手だね」--。
一般に、日本とそれ以外の国にルーツを持つ人を意味する「ハーフ」と呼ばれる人たちの物語を描いた異色のweb漫画『半分姉弟(はんぶんきょうだい)』。
作者の藤見よいこさんは、自身もスペイン人の父と日本人の母をもつ「ハーフ」だ。
「揺らぐアイデンティティを抱きしめる」をコンセプトに、様々なバックグラウンドを持つハーフの人たちの葛藤と希望を描いた本作。当事者たちが日常的に受ける人種差別やマイクロ・アグレッション(※1)の問題にも切り込み、1話公開後から話題を呼んだ。第2話も9月16日に公開された。
藤見さんへのインタビュー・前編では、「ハーフ」を題材に描くと決めたきっかけや、当事者としての自身の体験を聞いた。
【前編はこちら⬇︎】
今回のインタビュー後編では、「役に立つ存在」としてのハーフを受容する社会をどう考えるか、「半分」とタイトルに付けた理由などを尋ねた。
(※1...明らかな差別に見えないものの、人種・民族、ジェンダー、性的指向などにおけるマイノリティを対象に、相手が属する集団に対する先入観や偏見をもとに、その人個人をおとしめるメッセージを発する日常のやりとり。悪意の有無は問わない)
▼第1話のあらすじ▼
フランス人の父と日本人の母の間に生まれた2人のきょうだいをめぐる物語。弟の優太は「普通になりたい」と改名を決意し、ミドルネームを戸籍上から消した。姉の和美マンダンダはそんな弟の決断に戸惑いながらも、自らも周囲から「異物」のレッテルを貼られ続ける日々に苦悩する。
あえて「半分」を使った
ー「半分」を意味する「ハーフ」という呼称はネガティブなイメージもあり、当事者の間でも受け止め方が分かれます。『半分姉弟』というタイトルに、どのような意味を込めたのでしょうか
私自身、元々は「ハーフ」という呼び方に違和感を持っていませんでした。ですが本で調べたり、当事者から話を聞いたりする中で、「金髪碧眼(きんぱつへきがん)の白人系ハーフ」という画一的なイメージや、アイドルグループなどをポジティブに売り出す商業化の流れの中で広がったという言葉の歴史的な背景を知り、今は個人的には好んで使いません。
ただ、それは外野が押し付けることでもなくて。ハーフという言葉に自尊心を傷つけられたという人もいれば、アイデンティティだと感じる人もいる。
タイトルに、差別的な意味合いの「半分」を入れることにも悩みました。それでも、「ハーフ」が今も日本社会で広く使われていること、「人間を“半分”と呼ぶってどういうことなんだろう」と読者の方々と一緒に考えていきたいという思いも込めて、あえて使おうと決めました。
取材をして感じたのは、例えば同じ白人系のミックスの人でも、出身地や家庭環境、日本社会に「埋没」できる容姿の度合いなど、さまざまな要素によって全く違う人生を歩んでいるということです。
なのでこの漫画が「新しいステレオタイプ」を生み出してしまわないか、という点が気がかりでした。「ハーフは全員こういう体験をして、こういう感情を持つんだ」と受け取られないようにしたい。でも、ハーフを題材にしたエンタメ作品が日本で少ない中では難しくて...。
ハーフやミックスの社会史を研究をしている下地ローレンス吉孝さんに相談した時、「ハーフの人たちを代表しようとか、問題を全部網羅しようとか考えない方が良い。あくまで何十万人いる人のうち数人にフォーカスする、ということを意識することが大事」だとアドバイスをもらって、気持ちが楽になりましたね。
「代表する」という傲慢な気持ちは絶対に持たないよう気を付けつつも、ある程度は普遍的な体験を描けたらと考えています。
「役に立つ」から価値を認めるのか
ー「特別群れにとって有用やないと一員にしてもらえんのやと思う」という、弟・優太の台詞が印象的でした
スポーツや語学などの秀でた才能がある場合や、マジョリティにとって耳ざわりの良いことしか言わないようなマイノリティばかりが「受け入れられる」現状があると思います。
社会学者のケイン樹里安さんが「ちぎりとられたダイバーシティ」と表現していましたが、2021年の東京五輪では、まさにその問題を痛感しました。
ミックスルーツのメダリストを取り上げた報道記事で、「日本の血が流れていることを誇らしく思う人も少なくないだろう」という表現があるのを目にしました(※現在は該当部分が削除されている)。「ハーフ」が「日本にとって役に立つ存在」だから価値を認めるかのような扱いに疑問を持ちました。
五輪の開会式では、(ハイチ出身の父と日本出身の母をもつ)テニスの大坂なおみ選手が聖火最終ランナーに選ばれ大きな話題になりました。こうした抜擢の一方で、現実には大坂選手をはじめ、海外にルーツのある人たちへのヘイトスピーチは社会にあふれている。
そんな中での大坂選手の起用は、「『多様性を尊重しています』というアリバイづくりに利用されたと感じる」と話すミックスルーツの人もいました。
多数派に都合の良い「ハーフ」だけを受容し、都合の良い場面で「ハーフ」を利用する。一方で、差別への怒りを示したり苦境を明かしたりすると叩かれる。優太の言葉は、そういった現状に対する私自身の怒りも表現したいと思って入れました。
ーすれ違った人に指を指されて「クロンボ」と呼ばれたり、「お客さんがびっくりするから」と接客のバイトの面接で落とされたり。姉・和美マンダンダが親友に明かした差別体験も、胸を締め付けられるものでした
今回の漫画を描くにあたり、ミックスルーツの当事者やその親など11人にインタビューを受けていただきました。作中での差別の描写は、取材で直接聞いたり、文献で読んだりした実話を基に描いています。
当事者を深く傷つけかねない差別表現を使うべきか迷いましたが、信頼する専門家の方にも相談し、「現実に起きていることを誤魔化してはいけない」と心に決めました。
ー今後はどのような展開を考えていますか
1話の公開後、読者の方から「ハーフは見た目のせいで苦労する」というご意見をいただきました。確かに見た目も大きな要因の一つですが、実はそれは核心ではないと私は思っています。
日本には、アジアにルーツを持ち「見た目」の面では溶け込んでいるハーフの人たちがとても多い。でも「ハーフ」が話題にされたりフィクションで描かれたりする時、そういった人たちはあまりフォーカスされてこなかったように感じます。「金髪で白人系で、英語が堪能」というステレオタイプは根強いですよね。
なので2話では、中国にルーツのあるキャラクターを物語の中心にしました。
このほか、「外国人ふうの見た目」を理由に職務質問をされる「レイシャル・プロファイリング」(※2)や、ルッキズムの問題も取り上げたいです。
(※2...警察などの法執行機関が、人種や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること)
アフリカ系のルーツをもつ人に取材した時、カフェでお茶していたら「なんでガイジンがこんなところにいるの。警察呼ぶよ」と突然言われたという体験を聞きました。
外国人を「危険な存在で、犯罪者だ」と捉える人が現実にはいて、レイシャル・プロファイリングもその一つの形だと考えています。こうした恐怖心や警戒心は、従来のメディアの報じ方やフィクションでの描かれ方の影響も大きいですよね。
日本で生まれ育ち、母語も日本語であるハーフが、公権力から「異物」として扱われ続けることの絶望も表現できたらと考えています。
<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>
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