国連が要請した“分離教育”の中止「考えていない」と永岡文科相。通常学級で学ぶ時間を制限する通知「撤回しない」

「インクルーシブ教育」を巡る国連と日本政府の認識の齟齬が明確になった

障害児を通常の教育から「分離」しているとして現状の特別支援教育をやめるよう、国連が日本政府に強く要請したことを巡り、永岡桂子文部科学相は9月13日、閣議後の記者会見で「特別支援教育を中止することは考えていない」と述べた。国連の要請に対して、慎重な考えを示した。

国連の障害者権利委員会は2022年、日本が同条約に基づく対応を実施しているかどうかを確かめる「対日審査」を初めて実施し、9月9日に審査結果として報告書を公表。

報告書では、障害児が特別支援学校や特別支援学級に「分離」されることで通常の教育を受けにくくなっているとして懸念を表明し、障害児を分離する現状の特別支援教育をやめるよう日本政府に強く求めていた

国連は、文部科学省が2022年4月に全国の教育委員会に発出した通知で、特別支援学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ時間を週の半分以内にとどめるよう求めた点も危惧し、通知の撤回を要請していた。

この点、永岡氏は「通知はインクルーシブ教育を推進するもので、(国連に)撤回を求められたのは遺憾」として、撤回しない方針を強調した。

9月13日、閣議後記者会見で発言する永岡桂子文部科学相
9月13日、閣議後記者会見で発言する永岡桂子文部科学相
金春喜 / ハフポスト日本版

「インクルーシブ教育」を巡る溝

永岡氏の見解で浮き彫りになったのは、国連と日本政府との間にある「インクルーシブ教育」をめぐる認識の齟齬だ。

障害者権利条約は、障害のある人が一般的な教育制度から排除されない「インクルーシブ教育システム」を確立するよう締約国に求めている。日本は同条約を2014年に締結した。

国内では、条約の締結前から学校教育法に基づき、障害児が学ぶための場として特別支援学校や、小中学校内に通常の学級とは別で特別支援学級が設けられている。

こうした仕組みの下では、障害児が小中高校や通常の学級で学ぶ機会を得にくいことから、これまで国内からも「(健常者と障害者を分けて教育する)分離教育的色彩が強い」指摘されることがあった。

近年は、障害児が小中学校に入学を希望しても叶わない例や、定員割れしている高校でも不合格とされて複数年にかけ「浪人」する例が明らかになっている。障害児の就学先の決定を巡っては、文科省が定める特別支援教育についてのガイドライン「(児童生徒)本人や保護者などとの合意形成を進めた上で、最終的には市区町村教委が決定する」と明記されている。

国連は、障害児に対する「事実上の(小中高校や通常の学級への)入学拒否」が起きていることに懸念を示し、「長く続く特別支援教育により、障害児は分離され、通常の教育を受けにくくなっている」と指摘。その上で、障害児を「分離」している現状の特別支援教育をやめるよう、日本政府に強く要請した。

ただ、日本政府は、国連が「分離教育」の場と捉えている特別支援学校や特別支援学級も障害者権利条約が定める「一般的な教育制度」に含まれると解釈している。

国連の審査にあたって、「障害児は通常の学校(小中高校)に行くか、特別支援学校に行くか選ぶことができる」とも説明していた。

永岡氏は「文科省はこれまでも、障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限りともに過ごせるように、財政支援などに取り組んできた。勧告の趣旨を踏まえ、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に取り組みたい」と述べた。

国連が撤回求めた文科省通知のねらいは?

国連は、特別支援学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ時間を週の半分以内にとどめるよう求める文科省通知の撤回も要請していたが、永岡氏は取り下げない方針を示した。

同省は通知の発出に先立つ2021年度、特別支援学級に在籍する児童生徒の割合が高い10の都道府県・政令指定都市を対象とした調査を実施。その結果、特別支援学級に在籍する児童生徒のうち総授業時間の半分以上を通常の学級で過ごしている子どもが97%を占める自治体があることが判明した。

同省特別支援教育課の担当者は、「こうした自治体では、障害の特性に応じた支援が十分に展開されず、障害児が通常の学級内で放置されていることも少なくない。支援が必要な障害のある児童生徒には、特別支援学級での学習時間を確保することが適切」と説明する。

特別支援学級では児童生徒8人につき教員1人が配置される。児童生徒35〜40人につき教員1人の割合の通常の学級よりも、教員が多く配置されやすい。「本来、特別支援学級の在籍者としてカウントしなくていい子どもを算定することで、(国費で配置される)教員数を多く確保しているとみられる側面もあった」(同省幹部)。

こうした認識を踏まえ、同省は通知に「特別支援学級に在籍している児童生徒が、大半の時間を通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討するべき」と明記し、特別支援学級ではなく通常の学級に在籍するように求めた。

ただ、一部の地域の学校関係者や保護者からは、「障害児が通常の学級に在籍する児童生徒とともに学ぶ機会が奪われる」と懸念する声や、「通知に従おうにも、(クラスの定員などの都合で)今すぐに在籍学級を変えることは難しい」との訴えが相次いでいる。

こうした中、国連はすべての障害児が通常の教育にアクセスできるよう求め、通知の撤回を日本政府に強く要請した。

これを受け、永岡文科相は撤回しない方針を示した上で、「引き続き通知の趣旨を正しく理解してもらえるように、周知徹底する」と述べた。

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉

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