「僕は本を読むのが遅いんだ」
就職したばかりの頃、職場の上司に言われた言葉。当時はその言葉の意味がわからなかったという主人公。しかし、就職してから本を読んでいても、以前とは違って没入できないことを感じるように。そんな中、本の世界に没入しながら、少しずつ本を読む上司との出会いで気づきがーー。
そんな読書について描いた漫画に「マイペース大事ですね」「本を閉じて役に入り込む。そんな読み方を今度してみようと思いました」「自分にあったペースを探してみようと前向きになれました」など多くの声が寄せられています。
作者は、6歳と3歳の姉妹を育てながらイラストレーター・漫画家として活躍しているさざなみ(@3MshXcteuuT241U)さん。7月13日に「本を読むのが遅い人」(全18ページ)として投稿しました。
■本を読むのが遅い人
就職によって生活は変わったものの、行き帰りの電車や休みの日に以前と変わらず読書を続けていたさざなみさん。
しかし、以前は本に没入して読んでいたのとは違い、本を読みながらも現実のことを考えてしまっていることに気づき始めていました。
そんな中、本を読むのが遅いという上司と本について感想を共有する機会が。一冊の本を半年ほどかけて読み終えたという上司は、止まらない勢いで感想を語ります。
「少し読むと一旦本を閉じてその場面に出てきた登場人物の気持ちになりきり、自分なりの結論が出たら続きを読む」という上司。その言葉に、さざなみさんは、この人は本に没入できる人なんだと気づきます。
それから、物語の佳境に差し掛かる場面で一旦本を閉じるようになったさざなみさん。これからも、自分のペースで本を読み続ければいいのだと気付きます。
漫画の続きはこちらから読めます。
■本を開く楽しさを噛みしめて
ハフポスト日本版は、作者のさざなみさんに、漫画に込めた思いなどについて取材しました。
ーー今回なぜこのような漫画を描こうと思ったのでしょうか?
長女が小学生になり、毎週図書館を利用するようになりました。家でメディアを消して本を読む時間が増え、私も一緒にひさしぶりに読書を楽しむようになりました。人生で一番読んでいた学生のころの濃度には到底及びませんが、生活の折々に本を開く楽しさを噛みしめています。
今回のエピソードは、自分にとって本を読む度に思い出すものです。本を好きな人なら、きっと私がこのエピソードを大事にしている気持ちを分かってくれるだろうと考えて、エッセイ漫画の形にしてみました。
ーー上司の方と感想を語り合った時にどのようなことを感じましたか?
その本は歴史を扱った半フィクションものだったのですが、上司は本当に深く読み込んでいました。時代背景や他国との関係性、フィクションに交えて登場する実在した人物がその後どうなったかなど、いろいろ気になって調べたのだ、と教えてくれました。小説の主人公になりきって読む、という上司ですが、若い女性が語り手のときにも自分だったらどうするか彼女の立場になりきって考えると語っていたのが印象的でした。
ーー「私も時々、物語が佳境に差し掛かる場面でわざと本を一旦閉じてみるようになった」とありますが、この変化はさざなみさんの読書や人生にどのような意味をもたらしましたか?
解決手前や、これから佳境というときに本を閉じると、心臓がドキドキしています。
頭の中は本の中の出来事でいっぱいで、それをホワホワとお手玉しながら、敢えて落ち着いて仕事をしたり家事をしたりしているとなんだか楽しい秘密を抱えているようで機嫌が良くなりました。
読む本にもよるでしょうが、私はミステリーをよく読むので、種明かし手前でわざと読むのを中断してトリックを考えるのは頭の体操のようでテストで難問に挑むときのように頭の久しく使っていないところを刺激されます。
また、一気呵成(編集部注:一気に物事を成し遂げること)に読んでしまうのではなく、少しずつ本を読むスタイルは、私の気持ちに余裕のようなものをもたらしてくれました。
子どもに呼ばれて読みかけの本にしおりを挟むときも、いらいらしないことは確かです。
ーーご自身の学生時代の読み方と現在の読み方についてどのように考えていますか?
かつて潜るように没頭していた本の世界に、今は息継ぎするように少しずつ訪れている感じです。どちらがより良いということはありませんが、今の私の生活スタイルと体調には、後者の方が合っています。
ーー今回の投稿には12万1千件を超える「いいね!」が付くなど大きな反響が寄せられていますが、どのように感じていらっしゃいますか?
普段は育児関連の話題を出すことが多かったのですが、今回の本についてのエピソードにたくさん反応がいただけて、驚きつつ嬉しく思いました。
中でも、大人になって就職してから本を読めなくなっていた、という悩みの部分に共感してくださる方が多くいらしたことが印象的です。
しばらく本を開いていなかったという方が、作中の上司の読み方に触れて、こういう読み方でもいいんだ!と勇気づけられた、とコメントをくださったのを拝見して、このエピソードを描いて良かったなと思いました。