女性起業家を増やし、スタートアップ業界のジェンダーギャップを解消したいーー。
ベンチャーキャピタル(VC、新興企業を対象にした投資会社)のANRI(東京・渋谷)は、運用額250億円規模の4号ファンドで、投資先で女性が代表となる企業の割合を2割以上に高めるという目標を達成したと発表した。
同社によると、4号ファンドで、投資先98社のうち、20社が女性の代表となっている。主な投資先は女性のキャリア支援「SHE」や、キャリアSNSの「YOUTRUST」、家庭料理のテイクアウトサービス「マチルダ」など。運用総額は250億円。
2020年11月に目標を発表した当初、女性起業家への投資は2社で5%ほど。「できっこないという周囲の空気」を感じていたという代表の佐俣アンリさんは、ハフポストの取材に対して「未来が素晴らしくなる確信が持てた」と話す。
ーー目標を掲げた際、周囲から「難しいのでは」という声があったそうですが。
達成できなかったらカッコ悪いことになりますし、一方で、無理やり達成してパフォーマンスが悪くなっては意味がない。毎週、割合を見つつ、日本中の女性起業家をリストアップして、収益性はもちろん、どの企業に投資すべきかを検討していきました。シード投資という性質上、投資時点では良かったのかどうかわかりません。しかし今、この20社への投資は、結果に期待できるものになったと思います。
「SHE」の福田恵里さんも「YOUTRUST」の岩崎由夏さんも、「成功のために他の何もかも諦めるのが起業家」というのとは違うスタイル。もちろんそれぞれ経営に必死で取り組んでいますが、女性であることも含め、自然に生きていることの延長線上に起業があるという時代を作ろうとしている。この世代が引っ張っていってくれたら未来が素晴らしくなる、という確信が持てました。
ーースタートアップ業界の「ボーイズクラブ」が女性の起業を阻んでいるとお話しされていました。実際に投資を進められる中で、どんな点が課題だと感じましたか?
起業の世界でマイノリティである女性にとっては、事業を大きくしていったり、資金調達をしたりするために必要な情報にアクセスしにくくなるという課題があることは感じていました。それが、実際の起業の現場ではどう影響しているのか、具体的に見えてきました。
特に顕著なのが資本政策。例えば、事業スタート時点から支援する「エンジェル投資家」に対して、割り当てた株式の数が異常に多い、という事例がありました。世の中にはそういう詐欺の手口は確かにありますが、騙されているというわけではなく、起業の「常識」を知らずにやってしまっているだけのことも多い。
それは、東京に住んでいて、起業家コミュニティに入り込んでいる男性という、マジョリティの掛け算のような「情報強者」であれば自然と耳に入ってくるようなこと。そこに格差があることがよくわかりました。これは女性だけでなく地方の起業家にも同じことが言えると思いますが。
それを、出資側として「それじゃダメだ、わかってないね」と切り捨てるのは簡単です。しかし、それでは向かうべき世の中にたどり着かないと私たちは考えています。
ーー起業を目指す人に限らず、男女には金融に関する知識においてジェンダーギャップがあるとの指摘もあります。
結局、「女性はお金のことなんか知らなくてよい」とか、子どもの頃から誰かによって故意に遠ざけられていた結果なのだと思います。ただ、これは過渡期の現象で、時間がかかりますが、これから女性起業家のコミュニティをもっと大きく成長させていくことによって、解決できることだと思っています。
ーー目標を掲げた2年前に比べてESG投資という言葉もより浸透し、「女性2割」は、実現は難しくても、既に現実離れした何かという感じはしなくなったように感じます。
いずれは、世の中の男女比通り、起業家の半数は女性にしなくてはなりません。一方でもっとこの流れを加速させていくためには支援するVC側にも女性を増やしたい。ANRIではメンバーだけではなく、マネージャー、経営側の女性比率も高めていきたいと思っています。
起業家支援では先を行くアメリカでも実はVCの女性比率は低いことが問題になっています。日本が率先して実現できれば、世界一になれる可能性もあると思っています。加えて、ジェンダーだけでなく、国籍や年代のダイバーシティも進めていきたい。
女性に参政権がなかった時代って既に想像できないじゃないですか?HIVに感染した若者の平均余命が、治療薬によって非感染者とほぼ変わらない水準まで伸びる病気になったことも、自分が若い頃には想像ができなかった。未来にとって既に「当たり前」になったことを、起業を通じてどう実現していくのか。誰と実現していきたいのか。自分達はそれを目指してやり続けていきたいですね。