2022年上半期にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:3月19日)
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「服を買うのは好きですか?」
生活していく上で、服は欠かせません。
でも、買い物が苦手で、そもそも何を着ればいいかわからないこともあります。店員さんと話すのはハードルが高いし、過去に誰かに言われた「何を着ても似合わない」「みっともない」という言葉が頭によぎってしまうーー。
そんな「洋服選び苦手すぎ」問題を描いた体験漫画がTwitterで話題です。
作者の弓木らんさん(@Yumiki_ran)に描いたきっかけや思いを聞きました。
「着回す」って何?
服を買うのが無理すぎて、パートナーである夫にまかせているという弓木さん。
「どんな服がいい?」と聞かれ、ひとまず「最小限の枚数で着回す」という目標を立て、お店に行くことにしました。
目についたのは「お寿司」柄のTシャツ。かわいいプリントに惹かれた弓木さんですが、夫からは「テーマから外れてる」とツッコミが。「着回しするなら、最初は無地の服」をすすめられたといいます。
弓木さんにとっては、それ自体が驚きだったそう。
「着回しって一箇所だけルーレットすることだと思ってた…」
「むしろ色数を抑えて、シルエットをランダムに組み替えるイメージが近い」と夫からアドバイスをもらいます。
試着ってハードルが高い…
無地の服を何着か選び、そのままレジに向かおうとしたところ、次は試着を勧められます。
けれど、弓木さんにとって店員さんと話し「他人に面と向かって何かをお願いする・断る」 行為は、とてもハードルが高いといいます。
「似合わない」「仕事増やすな」「自分のサイズを把握していないの?」
そう思われるんじゃないかという不安が心をよぎります。
「それって、店員さんに誰に言われた言葉?」
そんな弓木さんに夫が一言。
「それって、実際に言われたわけじゃないんだよね?」
弓木さんはその一言にカチンときたといいます。「何度も何度も言われたことだよ…」 と。
「あんたってホンット何着ても似合わないね」
「恥ずかしい」
「みっともない」
「デブだからじゃない?」
「本当のことは何も言ってくれないんだからね?」
でも、それって誰に言われたんだっけーー?
それらは、店員さんではなく、母親に言われた言葉だったといいます。
「今は!夫に言われたことだけを信じるッッ!!」
そう決心した弓木さんは、さまざまな服の試着にチャレンジします。
「ちょっとまだ無理」ではあるけれど
試着をして「どう?」と聞かれても、全然わからない…。そんな時は「オレはいいと思う」という夫の言葉を信じて購入を決意。
無事に買い物を終えた頃には、「めっちゃ疲れた」と感じたそう。
でも、「これでワンシーズン着るものに困らないよ」と言われ、こうも感じていた。
「服への恐怖が無くなったら、以前よりも自分のこと。ちょっと好きになれるのかな…」
今回の買い物を通じて、「着回し」や服を購入する時のポイントを知ったという弓木さん。
「ちょっとまだ無理でした」と買い物に対する苦手意識は残ったままですが、「ちょっとずつ楽しめるようになれたらいいなあ」と感じたといいます。
「ずぼら」と「ややケッペキ」の夫婦の話
漫画家になって1年目だという弓木さんは、ダ・ヴィンチWebでコミックエッセイ『ケッペキとずぼら 〜正反対の2人と1匹が仲良く暮らすコツ〜』を連載中。何をやっても「ずぼら」だという弓木さんと、「ややケッペキ」だという夫が、「ちょうどイイ塩梅(あんばい)」の距離感を模索しながら生活する日常を、ユーモアを交えて発信しています。
「洋服選び苦手すぎ問題」の漫画も、2人の対比がわかるエピソードとして描いたそう。
「おしゃれやメイクが大好きな人にとっては信じられないかもしれないけど、日常で着るための洋服を買いに行く事すら毎回心臓をぶっ叩いてぷるぷるしながら挑んでいる人も大勢いると思うんだよね…ナッカーマ」
そうコメントをつけて漫画をツイートすると、3万以上の「いいね」がつき、「わかりみが深い」「ほぼ私だった。一人じゃないと思って安心した」「どっから手を付ければいいのかわからなかったけど、ヒントもらった気がする」など、共感の声が多く寄せられました。
「人と違って当然、悩んで当然」またすこし楽になった
母親から言われた「何着ても似合わない」などという言葉。
今でも油断すると、「つらいけど本当のことだから受け入れないと…」と、「自分は醜い」という考えに囚われそうになると、弓木さんは明かします。
けれど、以前と変わったところもあります。
「他人が美醜をジャッジする言葉はすべて『単にその人の主観で、個人的な感想』で、誰がどう感じたとしても(私の)本質とは無関係なことにあると捉えられるようになりました。『なるほど、あなたにはそう見えるのですね。以上』という感じです」
服を買うことについては、特に苦手意識が克服されたり、何かが大きくガラッと変わったりしたわけでないといいます。でも、こういった小さな体験の積み重ねによって、考え方に変化も芽生えたそう。
「『やっぱり自分はダメなんだ』と漠然と落ち込むことよりも、どんなところが苦手なのか?どんなところでつまづくのだろうか?……と、自身に問いかける割合のほうが徐々に増えている気がしています」
弓木さんは、共感の声の多さに心強さを感じ、また「全くそんなことを思ったことがなかった」という感想にも、新鮮な驚きがあったと話します。
「こんなにも人によって違うものだという事実を目の当たりにして『人と違って当然、悩んで当然なんだ』と、またひとつすこし楽になったような感じもします」