「ゲイだとバレることを恐れながら生きてきたのは、社会の差別が原因ではなく、本人のせいなのでしょうか」
「生まれ変わっても、ゲイには生まれたくありません。そう思わせる社会にしないでほしい」
自民党の国会議員が参加した会合で、「同性愛は精神障害、または依存症」といった、性的マイノリティに対する差別的な内容が書かれた冊子が配られていた問題を受け、7月4日、LGBTQ当事者やアライが東京都の自民党本部前で『Stand for LGBTQ+ Life』と題した抗議活動をした。
参加したLGBTQ当事者は、どんな思いを訴えたのだろうかーー。
◆抗議活動の背景は?
抗議活動のきっかけとなったのは、宗教法人「神社本庁」を母体とする政治団体「神道政治連盟」や自民党の国会議員による「神道政治連盟国会議員懇談会」の6月の会合で配られた冊子。
「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」「LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではない。LGBTは自分自身がさまざまな面で葛藤を持っていることが多く、それが悩みとなり自殺に繋がることが考えられる」といった内容が書かれていた。
当事者や専門家からは「事実に基づかず、差別的で非論理的だ」といった声が上がり、『change.org』では、自民党に対し、冊子の内容について明確な否定を求める署名活動が行われている。
◆200人の思いをレインボーフラッグに
ゲイである自身の経験も踏まえ、LGBTQについて発信するユーチューバーのかずえちゃんは、抗議活動の参加にあたり、全国からメッセージを募集した。
かずえちゃんは「自分自身が何ができるかを考えたとき、昔、セクシュアリティを隠していたことを思い返しました。きっと、当事者だとばれるのが怖かったり、遠方や仕事があって、声を上げたいけれど難しいという人も多いと考え、僕が伝えに行こうと思いました」と話す。
メッセージの募集は抗議活動の2日前に始めたが、200人を超える人から「みんなが平等に幸せを追求して生きられる社会を願っています」「差別や偏見のない社会にしてほしいです」といった思いが届いた。
かずえちゃんは、全ての思いを手書きでしたためたレインボーフラッグを掲げ、スピーチではLGBTQ当事者の子どもを育てる親や教師からも、悲しみや憤りを伝えるメッセージが届いたと明かした。
「自分が小学生だった頃から30年が経っても、いろんなものが変わってきました。それでも子どもたちの置かれている現状はまだまだ苦しいものばかりで、本当に悲しくなります」と語り、「未来の子どもたちのためにも、今ある差別を認め、差別や偏見がない社会にしてほしい」と訴えた。
◆ 自民党には、LGBTに対する認識のアップデートを
元消防士と元警察官のゲイカップルで、『KANE&KOTFE』(カネアンドコッフェ)として、YouTubeなどで発信活動をする KANEさんとKOTFEさんは、自民党本部前の抗議活動で2人でスピーチした。
KOTFEさんは、「幼い頃から、ゲイであることがバレたら、いじめられる、仲間はずれにされると恐れながら生きてきました。憧れて選んだ警察官や消防士という仕事も、辞めないとありのままの自分たちではいられず、心身ともに健康に働けず、退職しました」と語る。
また「ゲイだとバレることを恐れながら生きてきたのは、社会の差別が原因ではなく、僕たち本人のせいなのでしょうか」とした上で「自認する性や性的指向は血液型などと同様、本人の意思で変えようと思って変えられるものではなく、また、変えようとするものでもありません。自民党に対してLGBTに対する認識のアップデート、今後、差別をなくすための真摯な対応を求めます」と訴えた。
◆「生まれ変わっても、ゲイには生まれたくない社会がある」
KANEさんは冊子の内容について、「何度も胸をナイフで刺されるような感覚でした。実際に当事者の自殺率は高く、自殺を考えたことがある人は僕のまわりでも多いです。僕自身も、自殺を考えたことが何度もあります」と明かした。
今回の抗議活動に参加するとSNSで発信すると、死ぬために大量の薬を飲んだことのある当事者から連絡があったという。
「その方は自分をゲイであることと、それを認められない自分が、どう生きていいか分からなくなって、楽な方に逃げようと薬を飲んだと話していました。『楽な方に逃げる』。この言葉が胸に刺さります。当事者に『死んだ方が楽』と思わせる社会とは、一体なんなんでしょうか?悲しみと怒りを覚えます」
現在はゲイ当事者としてYouTubeなどで発信をしていて、「それができる時代になったのは、たくさんの先人が声をあげてきてくださったからです。本当に感謝しています」とした上で、肩を震わせ、涙を流しながら、「今日、ここでこれを言うか、ものすごく迷いましたが…」と前置きした上で、こう訴えた。
「ただ僕は、生まれ変わってもゲイには生まれたくありません。これは自分自身にも、また、他のゲイ当事者にも大変失礼な発言ですが、もう一度、つらかった過去を経験する人生を送りたくないです。
自分のアイデンティティであり、変えられないもので、自分自身の存在を否定される人生を、好んで選びたいとは思いません。そんな社会にしないでください。自殺されたたくさんの当事者の方々、現在苦しんでいる多くの人々を、さらに追い詰める社会にしないでください」
◆「もし日本の現状が違えば」
会場では、涙を流しながら聞き入る人もおり、都内から参加した30代のゲイの男性は「生まれ変わったらゲイに生まれたくないというのは強烈な言葉でしたが、当事者として正直、共感する部分もありました。それほど、今の日本では差別がはびこり、同性婚もできず、日々不安を抱えて生きないといけないからです」と話す。
KANEさんはスピーチの後「もし、時代や国、日本の現状が違えば、こういうふうに思わずにいられたかもしれません。ゲイである自分をもっと肯定できたかもしれない。次の世代の当事者の人たちが、自身を誇れるような社会になる政治を求めたいです」と願いを込めた。
<取材=佐藤雄(@takeruc10)、坪池順(@juntsuboike)/ハフポスト日本版>