ブラジルの裁判所の判事が、レイプに遭って妊娠した11歳の少女に対し中絶を認めない判断を下したことをめぐって、波紋が広がっている。
ニューズウィークなどによると、当時10歳だった少女は2022年初めに自宅で性暴力を受けた後、妊娠が判明した。
少女側の代理人弁護士によると、妊娠に気づいた時にはすでに22週を迎えていたという。
少女は母親の付き添いのもと、ブラジル南部のサンタカタリーナ州の病院で診察を受けたが、医師は少女が妊娠22週であることから中絶手術を拒否した。病院の院内規定では、中絶手術は20週までの人にしか行えず、その上裁判所による許可を必要としていたという。
少女の中絶手術の可否は司法判断に委ねられたが、担当の判事は中絶を認めなかったと報じられている。
「産みたくない」と伝えていた
AP通信によると、判事は5月の審理で加害者を「赤ちゃんの父親」と呼んだほか、少女に対して赤ちゃんを救うために「(中絶を)もう少し我慢してみては」と求めたり、名前を決めるよう勧めたりする姿が撮影されていた。少女は「産みたくない」と繰り返し伝えていたという。
少女は女性用シェルターで保護されたが、その間も中絶手術は認められなかった。その後自宅に戻ることを認められたが、現時点での中絶の可否は明らかになっていない。
ブラジルでは、女性の生命の危険が伴うケースや、レイプや近親相姦による場合を除き、妊娠中絶は犯罪とされている。
今回の性暴力事件をめぐり、現地の警察と検察は少女の親戚が容疑者であると主張している。
レイプで妊娠した少女が合法的に中絶するのを妨げた可能性があるなどとして、人権団体などはブラジルの司法評議会に対しこの判事の解任を要求。司法評議会は6月21日、判事の調査を開始したことを発表した。
判事は22日の声明で、「違法にリークされた(少女への)聞き取りの内容について話すことはない」との見解を示した。その上で「子どもへの正当かつ完全な保護を保証するため」、今回の事案に関してコメントをしないとしている。
判事を擁護する意見も
判事の決定に憤りの声が上がる一方で、22週という妊娠週数と母体保護の観点から、中絶を認めなかった判事を擁護する意見もある。
中絶反対派の中には、同国の保健省の勧告が中絶を20〜22週までに制限するよう求めていると主張する人もいる。
これに対し、少女の代理人や他の弁護士らは、女性の命の危険がある時やレイプ被害者の場合には法律上、妊娠週数の中絶制限に関して規定がないと訴えている。
世界では多くの国で中絶規制を緩和する動きが進む一方で、中絶の条件を厳格化する国や、無条件で禁止する国も少なくない。
5月には、アメリカ連邦最高裁判所が「妊娠中絶は女性の権利」と認めた「ロー対ウェイド判決」(1973年)を覆す見通しを示す草案がリークされ、抗議の声が各地に拡大している。