大切なひとを失い、涙を流す市民。命を守るため、地下室で身を寄せ合う日々ーー。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が2月に始まって以来、現地の惨状を報じるニュースも1日も休むことなく流れ続けている。戦争で苦しむ人々の姿をリアルタイムで目にするたびに、心を痛めている人もいるだろう。
こうした中、「メディアでウクライナ侵攻についての情報に触れる時間が長い人ほど、メンタルヘルスが悪化する傾向がある」という調査結果が発表された。
戦争の実態を知ることと、私たちのメンタルヘルスを守ること。どちらもないがしろにできないこの2つを、一体どうしたら両立できるのだろうか。
孤独感、全体的に高く
調査を行ったのは、一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」(荻上チキ所長)。5月、18〜79歳の男女1000人にインターネット上でアンケート調査を行い、6月に結果を発表した。
メディアで戦争についての情報に触れる時間が長い人ほど、抑うつ感、不安感、孤独感が高まる傾向にあった。一方で、家族や友人と戦争について会話している人ほど▽強い不安感を抱える人が少ない▽孤独感が低い▽人生満足度が高いーーという傾向があった。
ウクライナ侵攻が本格化する前の2月時点の調査と比べて、抑うつ傾向のある人が増えたのは、18〜39歳の若年女性と60〜79歳の高齢女性だった。高齢女性は強い不安を抱える人も増えていた。
全体的に、孤独感が高まる傾向にあった。高齢女性だけでなく、18〜39歳の若年男性も、その傾向が顕著にあらわれていた。
メンタルヘルスを守るポイント2つ
調査を行った荻上さんは「一般的に、ストレスが増大すると、精神疾患や自殺行動などにつながる恐れがある。ストレスは蓄積するものなので、短期間に多くの戦争報道に触れることは、相応のリスクになる」と指摘する。
一方で、「戦争についての報道(に触れること)は、知る権利や、『この社会をどうしていくか』という民主主義の根幹にもかかわる」と話す。その上で、ウクライナ侵攻に関する報道を全く見ないという対応ではなく、こうした報道によるストレスと上手に付き合うことを提案する。
ポイントは2つある。
1つ目は、戦争に関する報道に触れる量をコントロールすることだ。
荻上さんは、ウクライナ現地の惨状を報じるニュースなどを見るのが「きつい」と感じた場合には、ボリュームを下げたり、観る番組を変えるといった対応を推奨している。
2つ目に重要なのは、報道に触れた後の「セルフケア」や「グループケア」だ。
荻上さんは、ウクライナ侵攻についてのニュースを見た後などに、別の温かい話に触れたり、お風呂に入ったりして、気分を解消することを勧めている。
ウクライナ侵攻について家族や友人と話すとメンタルヘルスを維持できる傾向にあったことから、身近な人と戦争についての情報を共有したり、気持ちを吐き出したりすることもケアにつながるとしている。
悩んだら相談を
生きるのがつらいと感じている人や、周りに悩んでいる方がいる人たちなどに向けて、以下のような相談窓口があります。