大きく曲線状にカーブした黒い点字ブロックーー。
一見、なんの変哲もないようにも思える写真を、ある大学教員がTwitterに投稿。あわせて、こんな指摘をした。
「点字ブロックをカーブさせるのは推奨されない。方向がわからなくなるので」
投稿には4日間で2.6万件のリツイートと12.7万件の「いいね」が寄せられた。「気づかなかった」「点字ブロックがまっすぐなのには理由があったのか」と驚く声や、「デザイン重視なのかな」「使う人のことを理解していない」と疑問視する声も続々と上がっている。
ハフポスト日本版は、写真を投稿した滋慶医療科学大学大学院の岡耕平准教授に話を聞いた。
「どこに向かって歩いているか・・・」
人間支援工学を専門とする岡准教授によると、点字ブロックは一般的に、縦線が浮き上がる「誘導ブロック」をまっすぐつなぎあわせて道筋をつくることで、進行方向を示す。135度以上の方向転換が必要な位置や、階段の手前などには、小さい丸印がいくつも浮かぶ「警告ブロック」を設置する。
利用する視覚障害者は、片方の足で点字ブロック、もう一方の足で平坦な道を踏んだり、 白杖で点字ブロックをたどったりするなどして、安全に歩けるという。
では、今回の写真のような点字ブロックは、なぜ「推奨されない」のか。
「点字ブロックがカーブしていると、利用者はどれくらい方向転換したかが掴めなくなり、方向感覚を失います。自分がどこに向かって歩いているかわからず、不安に陥ってしまうのです」
曲線ではなく動線を直線でつなぎ、1箇所で直角に曲がるのが望ましいという。
不適切な点字ブロック、全国に
写真は5月、沖縄県内の公共交通機関の施設内で撮影したものだという。
岡准教授は「『カーブしていた方が美しく見える』と景観が重視された可能性があります」と分析する。「ただ、目が見えない人や視力の弱い人が使うときに機能しないと意味がありません」
写真では、濃淡のあるグレーの平坦なタイルの上に、黒っぽい点字ブロックが敷設されている。この色合いも、利用者にとっては不親切だという。
「弱視の利用者などは、点字ブロックの色を頼りに進行方向を認識していることも多いです。平坦な部分との色の違いがあいまいだと分かりづらく、歩きにくい場合があります」
岡准教授によると、点字ブロックが曲線状になっていたり、視力の弱い人にとって認識しづらい色使いだったりする例は「全国津々浦々にある」。いずれも「見える人」にとっての快適さを優先した結果だという。
「バリアフリー・コンフリクト」乗り越えて
ただ、点字ブロックの敷設に関しては「カーブさせてはならないという法律や厳格な規定があるわけではない」という。国際交通安全学会は、点字ブロックの有効な設置方法についてガイドラインをまとめているが、敷設者にはこうした指針を守る義務はない。こうした中で、障害者にとっての利便性よりも景観などが優先されることがあるそうだ。
岡准教授は点字ブロックの敷設者に対し、「義務ではないとしても、点字ブロックの使い方を学んだ上で、計画段階から利用者の声を聞きながら、適切な敷設方法を検討してもらいたいです」と求める。
障害者の移動に配慮し施設などをバリアフリーにすることが、利用者以外の人たちに「景観や快適さを損ねる」などと受け止められるといった対立は、専門家の間で「バリアフリー・コンフリクト」と呼ぶという。
岡准教授は「2つを同等に天秤にかけるべきではないはずだ。こうした対立を乗り越えるため、何が大切かについて社会で議論し、解決策を考える必要がある」と指摘する。
敷設者以外の個々人に対しても、「実際に困った様子の視覚障害者に出合ったら、進んで声を掛けてもらいたいです。『困っていそうだ』と気づけるようになるには、まずは関心を持つことが大切です」と求めている。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉