「わんちゃん触っていいですか?」
小学校中学年くらいの子ども2人がそう話しかけたのは、リードに黄色いリボンをつけて散歩していた黒柴の大和くんの飼い主だった。
「触らせてあげられないことと黄色いリボンの意味を教えたんだけど、今日、その子にまたあったら、一緒にいた友だちたちに黄色いリボンのことを説明してくれてた」
飼い主がTwitterにそう投稿すると、「みんなに教えてあげてほしい」「うちの犬にも黄色いリボンをつけたい」といった声や、「黄色いリボンの意味を知りたい」と尋ねる声が相次ぎ、話題となった。
黄色いリボンの意味とは?
飼い主は子どもたちに対し、黄色いリボンの意味をどのように教えたのだろうか。
飼い主によると、大和くんの散歩中に小学生と出合ったのは4月中旬。「触っていいですか?」と聞かれた飼い主は、「ごめんね。この犬は怖がりだから、触らせてあげられないの」と説明した上で、「犬がつけている黄色いリボンには、『触れません』という意味があるんだよ」と教えたという。小学生は「初めて知った」と答えたそうだ。
9歳の大和くんは大の怖がり。正面から別の犬がやってくると、物陰に隠れて通り過ぎるのを待っているほどだという。家族以外の人と会うと、逃げたり、吠えたりしてしまうそうだ。
「子どもが急に犬に手を伸ばし、犬がその手を噛んでしまわないか心配だった」という飼い主は、3年ほど前に犬がつける黄色いリボンの意味を知り、大和くんのリードにつけて散歩するようになったという。
小学生にリボンの意味を説明した数日後、大和くんの散歩中に、再び同じ子どもを含むグループに出合った。すると、黄色いリボンについて教えてあげた小学生が「黄色いリボンをつけている犬は、触っちゃいけないんだよ。あのわんちゃんは怖がりなんだって」と、別の子どもに教えてあげていたそうだ。
「人目を避けて散歩するしかない」
飼い主は「子ども同士でリボンの意味を教えあったり、家族にも説明してくれたら」と期待する。
黄色いリボンの意味について理解を促進するグッズを販売する「Yellow Ribbon Dog」を運営する木﨑亜紀さん(NPO法人「迷子犬の掲示板」の代表)は、「日本国内の黄色いリボンの認知度はまだまだ低い」と話す。
木﨑さんが運営するInstagram: 黄色いリボンと缶バッジをつけた犬
木﨑さんによると、怖がりの性格や病気・怪我などを抱える犬に黄色いリボンをつけ、「触らないで」とアピールする取り組みは、海外で始まった。
例えば病気で心臓が悪かったり、関節が外れやすかったりする犬は、散歩中に興奮すると健康に悪影響が出る恐れがあるという。長らくケージに閉じ込められ、屋外を散歩することが少なかった元「繁殖犬」にとっても、知らない人に触られるという刺激をできる限り抑えて徐々に散歩に慣れることが重要だそうだ。
木﨑さんが運営するInstagram: 黄色いリボンと缶バッジをつけた犬
国内での理解を広めるため、木﨑さんは2021年6月から、黄色いリボンに直接つけられる缶バッジを作り始めた。缶バッジには「はなれていてね!」というメッセージと、触れてはいけないことを表す手や犬のイラストが描かれている。現在までに約1千個を販売したという。
缶バッジを販売していると、黄色いリボンを必要とする犬を飼う人たちから「肩の荷が下りました」などと安堵する声が届くようになったという。
「飼い犬を他人に触られないようにするには、人目を避けるため、夜中や早朝に人通りの少ないエリアを歩くしかなかったそうです。『わかりやすいグッズで理解してもらえれば、気軽に散歩しやすくなる』と喜ばれました」
木﨑さんが運営するInstagram: 黄色いリボンと缶バッジをつけた犬
木﨑さんによると、ネット上での情報発信を通じて、1年前よりも黄色いリボンを知る人は徐々に増えたものの、まだまだ浸透は道半ばだ。木﨑さんは「人が使う『マタニティマーク』や『ヘルプマーク』と同じくらい、黄色いリボンの意味を知っていることが当たり前になってほしいです。そうなれば、より多くの犬が安心して散歩できます」と願っている。
木﨑さんのInstagram: 黄色いリボンと缶バッジをつけた木﨑さんの飼い犬
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉