DHC製造の「下北沢カオスビール」に世田谷区が見解。「事前に十分な確認できず」「役割は限定的」と釈明

世田谷区は「官民連携指針」を初めて改訂し、「(区の条例が定める)差別の解消に関する規定を連携事業者に周知し、留意を促す」と明記した

世田谷区が官民連携の一環として開発に関与した「下北沢カオスビール」。在日コリアンへの差別的な文書をホームページに掲載したことで知られる化粧品大手「DHC」が製造していたと発売後に知れ渡り、波紋が広がっていた。

区は4月25日に「区の経費負担はなく、製造会社の選定への関与もない」などとする見解を発表した。

3月30日に販売を開始したビール
3月30日に販売を開始したビール
オオゼキ

DHCが製造する下北沢カオスビール

「サブカルの街『下北沢』をさらに盛り上げたい!」をコンセプトに5者で連携して生まれた下北沢の象徴となるクラフトビール「下北沢CHAOS(カオス)ビール」を、3月30日(水)から発売しますーー。

ビールの販売が始まると、この文書に示された「5者」に含まれないDHCがビールの製造元だと知れ渡り、ネット上では「#下北沢にDHCビールいらない」と反発を示す声が相次いだ。

DHCは在日コリアンを差別する内容の文章を吉田会長名義でホームページ上に複数回にわたって掲載。2021年には「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう」といった内容や、「唾棄すべきコリアン系有名人数名を実名で掲載していた」という新聞の折込チラシが断られたことなどを綴っていた。

批判を受け、同社は同年5月末までにすべての文章を削除したものの、4月時点で同社と包括連携協定を結んでいた21の自治体との間では契約解除が相次いだ。

同社のホームページによると、協定を結ぶ自治体は22年4月までに11に減った。直近では茨城県行方市が3月末に協定を解消したと報道されている。

こうした流れに逆行するかのように、世田谷区と同社が連携したとみられるビールが発売され、ネット上だけでなく、区に直接、抗議する声もあった。

区経営改革・官民連携担当課の担当者によると、ビールの発売開始から区の見解の発表までの約1カ月間に、ビールについての問い合わせは約50件あった。「ビールの製造会社と区が連携していることを問題視する声が中心だった」という。

一方で、「ビールの製造に区の予算を投入しているのではないか」という「誤解」に基づく批判も含まれていた。そこで、区は行政として果たした役割などを文書で説明する流れとなった。

「経費負担なく、製造会社の選定への関与もない」

世田谷区が4月25日に発表したのは、「官民連携による下北沢地域活性化の取組みについて」と題する文書で、DHCの社名には一切言及しないものだった。

文書では「製品を製造した企業に関して区の協力を疑問視するご意見をいただいております」とした上で、「本事業に対する経費は負担しておらず、製造会社の選定、販売などへの関与もありません」と説明。

区の役割は「プロジェクトを企画した企業に対し地元商店街や世田谷区に所縁のある群馬県川場村の地元企業を紹介し、幅広い連携を図るとともに、ネーミングやパッケージデザインの検討会に参加」する程度だったと述べた。

区は指針を改訂、「差別の解消」を企業に周知

発表された文書では、次のようにも説明している。

区は、平成30年4月に施行した「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」の基本理念に則り区の責務を果たすとともに、「世田谷区官民連携指針」に基づき連携事業者等に対し条例の趣旨に沿った取組みを促しております。

同条例は、「全ての人が、多様性を認め合い、人権が尊重され、尊厳を持って生きることができる」などの基本理念を掲げる。その上で、「事業者の責務」も明記している。

特に事業者のみなさんには、働くすべての人がそのライフスタイルに応じて多様な生き方を選択できるよう、募集、採用及び昇進など、あらゆる場面で、性別や性自認、性的指向、国籍、民族の違いによる不当な取扱いがないよう配慮し、事実上生じている不当な取扱いについても積極的に改善するようお願いします。

なお、「不当な差別的取扱い」には、直接的であるか間接的であるかを問わず、また、差別の意識のあるなしに関わらず、結果として不当な差別的取扱いになる行為が含まれます。

区はこうした条例の趣旨を区と連携する企業に周知する目的で、「世田谷区官民連携指針」を4月14日に初めて改訂。「条例の基本理念に則り、差別の解消に関する規定を連携事業者に周知し、留意を促す」と明記した。

翌15日には区と連携する数十社の企業に向けて「依頼文」を発出し、指針の改訂内容を周知したという。

 「説明された記録はない」

指針の改訂や見解の発表など、対応に追われた世田谷区。担当者がDHCの関与に気づいたのは「区民よりも後」だった。

「ビールの発売後、区民から製造会社について複数の問い合わせがあったことで、初めて製造会社がDHCだと気がついた」(担当者)。

気づけたかもしれないタイミングはあった。区側は2021年12月中旬にビール缶のラベルのデザインを確認していた。ラベルには他の企業の名称などよりも小さいフォントでDHCの社名が記されていたが、区の担当者らは気がつかなかったという。

区の担当者は、製造会社がDHCに決まったことについて「企画した企業側から説明された記録はない」と話す。その上で、「事前に十分な確認をできていなかったので、(企業との連携は)深い検討の結果だったとは言えない。区が果たした役割は限定的であり、事業主体ではないため、事業の今後の方針について判断する立場にもない」と説明する。

ハフポスト日本版は、上述の「5者」のうち、世田谷区が「ビールの企画に中心的に携わった」と指摘する企業2社に取材を申し込んだ。

日テレ7(東京都港区)は「『下北沢カオスビール』は下北沢を盛り上げるために、弊社がデザイン、試飲会などを企画・実施いたしました。個別の商品に関する具体的な取引条件、及び関係各所との調整内容等につきましては従来から開示しておらず、今般もお答えは差し控えさせていただきます」、オオゼキ(世田谷区)は「関係する企業が複数あるので、当社から回答できることはありません」と答えた。

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