壁ドンを教育、「ハンサム・美人ほど恋愛経験豊か」内閣府の研究会資料に波紋

問題となっているのは、「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」で示された資料。内閣府の担当者は取材に、「ルッキズムを正当化する趣旨ではない」と説明している。

「ハンサム・美人ほど恋愛経験豊か」

「男性は80キロ、女性なら60キロ超えたら、もう恋愛の資格ないでしょ」ーー。

内閣府男女共同参画局が公開している「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」の会合で発表されたプレゼンテーション資料に対し、「ルッキズムを助長しているのでは」などと波紋が広がっている。

「恋愛支援」に「壁ドンの練習」?

内閣府(東京都千代田区)
内閣府(東京都千代田区)
時事通信社

研究会は、未婚や単身世帯の増加など、結婚と家族に生じている変化について「データを用いて多面的に明らかにするとともに、それに伴う課題を整理する」ことを目的に設置された

研究者ら6人で構成され、報告書作成に向けて議論を重ねている。

問題となっているのは、4月7日の第11回会合で使用された『豊かで幸せな人生100年時代に向けた、恋愛の役割はなにか:恋愛格差社会における支援の未来形』と題する資料だ。会合は非公開で行われた。

研究会の構成員である成蹊大教授の小林盾氏が作成し、30枚のスライドから成る。

4月14日午前9時時点で議事録は公開されていないが、内閣府の担当者によると、議事次第の通り、資料に沿って構成員たちからプレゼンがあったという。

資料には、小林氏らが行った全国調査の結果などをもとに、「男女ともハンサム・美女ほど恋愛経験豊か(女性1.5倍、男性1.7倍) とくに男性で効果が加速」などと記載されている。

このほか、「キャバクラ嬢(への)インタビュー」として「男性はとりあえず清潔感、ぜったいほしいんで」「男性は(体重が)80キロ、女性なら60キロ超えたら、もう恋愛の資格ないでしょ」といったコメントを載せている。

さらに、「恋愛チャンスに格差がある(恋愛格差)」として「ハンデを是正し、『恋愛弱者』にもチャンスを平等化するために『恋愛支援』が必要かも」と提言。支援の例として、「壁ドン・告白・プロポーズの練習」を教育に組み込むことなどを挙げている。

「課題」をまとめたスライドには、結婚・家族の多様化の具体例として「シングルペアレント」や「子なし夫婦」、性的マイノリティーである「アロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない)、アセクシュアル(他者に性的に惹かれない)」などが例示されていた。

内閣府の研究会で示された、構成員によるプレゼン資料
内閣府の研究会で示された、構成員によるプレゼン資料
内閣府

「容姿レベルは調査員が評価」

プレゼン資料は、小林氏の著書『美容資本 なぜ人は見た目に投資するのか』(勁草書房、2020年)などが引用元となっている。この本の中に、分析対象となる調査の詳細が記されている。

調査は2018年に全国の20〜79歳を対象に実施し、有効回収数は2262人。「容姿レベルについては、訪問面接した調査員に、11段階で評価するよう依頼した」と著書に説明がある。プレゼン資料にも、容姿レベルは「調査員が評価」と明記されている。

内閣府の見解は

プレゼン資料に対し、「人権感覚どうなっているの」「ルッキズム(外見に基づく差別・偏見)を助長している」といった批判の声が上がっている。

資料では「恋愛は(事実として)結婚・出産の前提条件」とした上で、恋愛支援の方法について紹介しており、異性同士の恋愛・結婚を前提とした表現が目立つ。

研究会を主催する内閣府は、批判をどう受け止めているのか。

内閣府男女共同参画局の担当者はハフポスト日本版の取材に対し、「資料に対して多様なご意見があることは承知しています」とした上で、「これまでの著書の内容をもとに構成員の考えを述べられたもので、一つの意見として理解している」と説明。

「男女ともハンサム・美女ほど恋愛経験豊か」「恋愛の資格ない」などの表記については「ルッキズムを正当化する趣旨ではないと受け止めている」との見解を示した。

4月7日、「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」(第11回)を開催しました。今回は、成蹊大学・小林盾教授から豊かで幸せな人生100年時代に向けた恋愛の役割、お茶の水女子大学・永瀬伸子教授から女性の雇用改善に向けた課題について、プレゼンいただきました。https://t.co/Ks9tudh4h5 pic.twitter.com/8sqp6bHmBx

— 内閣府男女共同参画局 (@danjokyoku) April 8, 2022

「壁ドン」行為は、関係性や状況によっては暴力性が強まり、デートDVにつながる恐れもある。

「壁ドン練習」の教育という事例の記載について、担当者は「あくまで構成員の大学研究室での取り組みを紹介されたもの」としている。

研究会は社会学、経済学、人口学の専門家6人の構成員でつくる。

内閣府の担当者は、小林氏を選任した理由について「社会学の専門家であり、(内閣府の)『人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査』の検討委員を務めた経歴があるため」だと説明した。

報告書は「誤解を招かないよう」

これまでの議論を踏まえ、研究会は今後報告書を作成する見通し。プレゼン内容をどう盛り込むかは未定という。

報告書の作成に関して、内閣府の担当者は「恋愛や結婚という個人の決定について、特定の価値観を押し付けることはあってはならないと認識しています。報告書を読んだ人の誤解を招かないよう、研究会で取りまとめを行っていただきます」とコメントした。

研究会の1回当たりの予算は10万〜15万円で、4月7日の会合は約15万円の支出があった。出席した構成員への謝礼や速記費用に充てられるという。

注目記事