剃る一択じゃない。「“ムダ毛”表現やめます」カミソリ大手Schickが宣言したわけ

シック・ジャパンの担当者は「従来の自分たちの発信を振り返り、今では『体毛は一律に剃るべき』という考えが時代にそぐわないものになっていると感じています」と話している。
“ムダ毛”という表現やめます
“ムダ毛”という表現やめます
Schick

“ムダ毛”という表現やめますーー。

カミソリ・ひげ剃りメーカー大手のSchick(シック)は、「ムダ毛」という表現を全ての自社発信において廃止することを発表した。

同社は宣言の中で、「時代とともに『毛』に対する考え方は、多様化しました」「Schickは、誰もが自分の好きなスタイルを表現できるよう これからもお客様のサポートに努めていきます」とアピールしている。

シック(4・9)の日である4月9日から、ウェブサイトや印刷物などでの「ムダ毛」の表記を見直し、2022年12月末をめどに順次変更を進めるという。

なぜこのような宣言をしたのか?

一方的な決めつけをやめる

シック・ジャパンPR担当の今泉理恵子さんは、「『ムダ』には必要ないもの、良くないものというネガティブな印象があります。カミソリを扱うブランドとして、毛を『ムダなもの』と一方的に決め付けるのではなく、個人が毛と向き合う際に自由なスタイルを実現する上でサポートしたいと考えました」と、宣言の意図を説明する。

体毛を「剃る」「整える」「残す」といった多様な選択肢がある中で、「ムダ毛」という表現を使用することは不適切と考えたという。

「女性は体毛をケアするのは当たり前」

「男性なのに体毛を気にしてシェービングするのはおかしい」

「他人の目があるから、体毛を処理しなければいけない」

体毛をめぐるこうした固定観念に悩み、体毛の処理を苦痛に感じてしまう人も少なくない。

Schickが2021年、15〜29歳の女性664人を対象にしたインターネット調査では、「ボディヘアの有無は個人の自由であるべきと思うか」との質問に88.7%が「思う」と答えた。

一方で、「一般的に『ムダ毛はケアするべきもの』という固定観念が存在すると思うか」との問いに、83.9%が「思う」と回答した。

今泉さんは、「メディアの発信の中では、毛はケアするもの、剃るものというメッセージが圧倒的に多い。身近な人との会話でも『剃ること前提』で話が進みがちです。そういったものが重なって、自分が望む毛のケアの仕方と固定観念の間にギャップがあり、違和感を抱いている人は多いのではないでしょうか」と話す。

ムダ毛=悩む対象?

イメージ写真
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Javier Zayas Photography via Getty Images

カミソリ商品を扱うSchickのこれまでの発信も、そうした固定観念と無関係ではなかった。

同社サイトでは、「ムダ毛処理の知識」と題するページで関連記事を多数掲載している。

女性にとって腕の毛は大変悩ましい問題の一つではないでしょうか。腕のムダ毛が気になると、ノースリーブや半袖のような腕の露出が多い服装をためらってしまいますよね>

<ムダ毛をケアしている女性の肌は瑞々しさがあります。>

「ムダ毛」は女性にとって多くの場合「悩む対象」だと強調するほか、「ケアする(除毛・剃毛する)=“美しく”なる」という画一的な価値観を読み手に与えかねない記述もある。

「毛に対するお客様のケアの仕方やイメージ、悩みにお応えする形でSchickの取り組みは変化してきました。従来の自分たちの発信を振り返り、今では『体毛は一律に剃るべき』という考えが時代にそぐわないものになっていると感じています。リーディングカンパニーとして毛のあり方を決める選択をサポートしていきたい、その文化を醸成していきたいという信念もあり、今回の宣言につながりました」(今泉さん)

カミソリを扱う企業が「剃らない」という選択肢も支持する、というメッセージを打ち出すことに、社内で異論はなかったのか?

#BodyHairPositive
#BodyHairPositive
Schick

同社コミュニケーション担当の古川滋子さんは、「自分たちの存在意義を問われるところでもあるので、『剃らなくてもいい』ということに対しては社内でも議論がありました」と明かす。

その上で「剃ったり残したり、自身の気持ちによって毛のあり方を変幻自在にできることがカミソリの強み。『面倒くさい、ムダなものを取り除かなければいけない』という後ろ向きな気持ちではなく、ポジティブな気持ちで体毛と向き合ってもらうために果たせる役割があるのではないかと考え、一歩踏み込んだ試みをしました」と話す。

シェービング製品を輸入・製造・販売するSchickは、2021年に創業100周年を迎え、日本上陸から60年以上たつ。

「商品を手に取り、自分と向き合うその時間に、本当の自分らしさを見つけて表現することをサポートしたい」との思いから、「It’s in your hands」をブランドメッセージとして掲げている。

2021年3月からは「#BodyHairPositive」のプロジェクトをスタート。気分や部位によって剃る・剃らないの選択肢があって良いことや、その選択は他人に促されるものではないという考えのもと、「自分にとって心地いいスタイルを、誰もが見つけられるように」とのメッセージを発信している。

今回の「ムダ毛表現廃止」の宣言は、こうした流れに続く取り組みという。

「#剃るに自由を」貝印の広告

MAGNET by SHIBUYA前に掲示された貝印の広告(2020年8月撮影)
MAGNET by SHIBUYA前に掲示された貝印の広告(2020年8月撮影)
Machi Kunizaki / HuffPost Japan

剃るか、剃らないかは自分で決めるーー。

体毛に関して、個人の自由な選択を応援する企業のメッセージは他にもある。

刃物メーカー大手の貝印が2020年、「#剃るに自由を」のキャッチコピーでバーチャルヒューマンを起用した広告は当時大きな反響を呼んだ。

広告では、CGで作られたバーチャルヒューマンMEMEが頭上で腕を組み、処理されていない脇毛を見せる。

「ムダかどうかは、自分で決める。

ムダ毛を気にしない女の子もカッコいいし、

ツルツルな男の子もステキだと思う。

ファッションも生き方も好きに選べる私たちは、

毛の剃り方だってもっと自由でいい。」

貝印の担当者は企画の趣旨について、「剃ること、剃らないことを自由に選べて、それぞれの価値観を認め合うことを応援したい。そんなメッセージを伝えられたらと思いました」とハフポスト日本版の取材に話していた。

駅構内や電車内など、街に出れば美容クリニックやエステサロンの脱毛広告を至るところで見かける。

動画配信サイトなどで流れるネット広告にも、女性の体毛を「不潔」「美しくないもの」とみなし、コンプレックスをあおって商品を宣伝する手法が散見される。

そこでは、腕や脚、脇などの体毛は「処理する」一択だという考え方が全面に押し出されている。

Schickや貝印の取り組みは、こうした「体毛と美しさ」をめぐる固定的な価値観に一石を投じるものだ。

他人からの視線や押しつけ、強迫観念によるものではなく、「消費者自身がどうしたいか」を決めて良いと示すこと。その選択を企業として応援し、支えていこうという意思表明でもある。

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)

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