ジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗中傷するTwitterの複数の投稿に「いいね」を押され名誉を傷つけられたとして、伊藤さんが自民党の杉田水脈議員に220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(武藤貴明裁判長)は3月25日、伊藤さん側の請求を棄却した。
今回の訴訟では、誹謗中傷ツイートに対する「いいね」が名誉を傷つけるとして法的責任を問えるかが焦点となっていた。
訴状によると、杉田議員は2018年6〜7月、性暴力被害を訴えている伊藤さんに対する、匿名のTwitterアカウントによる「枕営業の失敗」「売名行為」「嘘をついて日本を貶めている」といった誹謗中傷の投稿に「いいね」を押したという。
国会議員であり、当時11万人のフォロワーがいた杉田議員について、伊藤さん側は「言動の影響力は絶大」と主張。「中傷に(「いいね」を押して)好感を宣明したことは、それを目の当たりにした原告に対する、社会通念上許される限度を超えた名誉感情侵害行為に当たる」と訴えていた。
一方、伊藤さんの代理人弁護士によると、杉田議員側は一連の誹謗中傷ツイートに「いいね」を押したことを認める一方、後々読み返せるよう「ブックマーク機能」として付けたと主張。賛意や好感を示したものではないと反論し、請求棄却を求めていた。なお、具体的にどのような理由でブックマークしようと思ったかについては「記憶がなく、明らかにできない」と主張しているという。
判決内容は?
判決では、杉田議員が誹謗中傷のツイートに「いいね」を押したことは、その投稿に対する「好意的・肯定的な感情を示したものと一般に受け止められるものだと認めるのが相当である」と指摘。
一方で、「いいね」はブックマークや備忘などの目的で使われることもある上、「いいね」を押すこと自体からは「感情の対象や程度を特定することができず、非常に抽象的、多義的な表現行為にとどまるもの」だとした。
その上で武藤裁判長は、「『いいね』を押す行為は、原則として社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価することはできないというべき」と結論づけた。
判決ではさらに、杉田議員の「いいね」が、中傷ツイートに対する好意的・肯定的な感情を示すという意図や目的を超えて、「原告(伊藤さん)に対する加害の意図をもって行われたと認めるべき事情もない」と指摘した。杉田議員の「言動の影響力は絶大」という伊藤さん側の主張に対しても、「被告の影響力によっても結論は左右されない」として認めなかった。
リツイートで賠償命令も
この裁判とは別に、ネット上の誹謗中傷をめぐり、伊藤さんは2つの民事訴訟を起こしていた。
虚偽の内容のツイートで名誉を毀損されたとして、元東京大学大学院特任准教授の大澤昇平さんに損害賠償を求めていた訴訟の判決で、東京地裁は大澤さんに慰謝料など33万円の支払いと投稿の削除を命じ、確定した。
このほか、伊藤さんを思わせる女性や「枕営業大失敗!!」などと書き添えたイラストをツイートした漫画家のはすみとしこさんと、その投稿をリツイートした男性2人を名誉毀損で訴えた裁判で、東京地裁ははすみさんに88万円、男性2人にそれぞれ11万円の支払いを命じる判決を言い渡した。はすみさんと男性1人は2021年12月、東京高裁に控訴している。
【UPDATE】2022年3月25日14:30
判決内容を更新しました