4月からの成人年齢の引き下げに伴い、高校生を含む18歳と19歳はアダルトビデオ(AV)の出演契約を結んだとしても成人として扱われ、親の同意のない契約を取り消せる「未成年者取り消し」の対象外となる--。
政府が示したこの方針をめぐって、新たに成人する10代の意に反するAV出演が増えて「性被害の救済が著しく後退する」などと懸念の声が広がっている。
被害に遭った当事者や支援団体は3月23日、衆議院議員会館(東京)で緊急院内集会を開き、18歳や19歳であっても契約後に取り消しができる法制度を創設するよう求めた。
何が問題になっているのか
児童買春・ポルノ禁止法は、18歳未満のAV出演を認めていない。
一方、同法の対象ではない18歳と19歳の場合、親などの同意なく結んだ契約を取り消すことができる民法上の「未成年取り消し権」を従来は使うことができた。そのため、18〜19歳がAV出演を強要される被害に遭っても、映像の流通前に取り消しをすれば販売や配信の中止が可能だった。
だが民法改正で4月から成人年齢が18歳に引き下げられることに伴い、政府はAV出演であっても「未成年取り消し権を行使できる者を18歳、19歳まで拡張することは困難」との見解を示した。これにより、親の同意の有無に関わらず、未成年取り消しが使えなくなる。
こうした政府の方針を受け、デジタル性暴力の被害者支援に取り組むNPO法人「ぱっぷす」と国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」は23日、緊急の院内集会を開催。「被害者を救済する包括的な法整備が必要だ」と訴えた。
抑止がなくなってしまう
「ぱっぷす」は、AV業界などでの性的搾取やデジタル性暴力の被害者から相談を受け付けている。
理事長の金尻カズナさんは集会で、若い女性たちがプロダクション側に「仕事は選べる」と説明されたため契約書にサインしたにもかかわらず、その後話が一変し、圧力をかけられてAV出演を断れない状況に追い込まれるケースが多いと報告。
「事業者は“若い性”が儲かることをよくわかっている。これまでは未成年取り消しという抑止力があったからこそ、18歳と19歳は被害を受けても救済されていた。4月1日以降はその抑止がなくなってしまう」と危機感を募らせた。
「一生消えない傷に」
大学生の頃、AV出演強要の被害に遭ったくるみんアロマさんは、音楽業界でデビューさせるという名目で勧誘を受けた後、面接で「この子はヌードもできる」などと言われたという。最終的には十数人に囲まれ、「あなたにどれだけ時間とお金を使ったと思っているの」と詰め寄られ、AV出演の契約をしてしまったと明かす。
「一生消えない傷になった」と語ったくるみんアロマさん。「18、19歳の子がスカウトをされ、夢を実現できるかもしれないとなった時、冷静に判断して出演を断れるかといったらそれは違います。(AV出演契約に関しても)成人年齢が引き下げられるのは酷なんじゃないか」と指摘した。
さらに自身も当時、事業者側に言葉巧みに言いくるめられたとして、大人からの勧誘で騙されないよう義務教育の段階で学ぶ機会を保障するべきだと述べた。
HRN事務局長で弁護士の伊藤和子さんは、くるみんアロマさんのように意に反するAV出演の契約が「若年層の弱さや困惑に乗じて行われている」と指摘する。
「嫌なら出演する前に断ればいい」といった意見に対し、「被害者は騙されてしまって洗脳に近い状態に陥っているため、なかなか断ることができない実情がある」と話す。
成人年齢の引き下げが目前に迫っていることを踏まえ、「与野党で知恵を出し合い、包括的な法律を作っていただきたい」と訴えた。
「断れば違約金」と脅され出演
政府は、未成年取り消し権を18〜19歳に拡げることは困難としつつも、「不当な手段によって締結された契約については、詐欺、強迫等を理由とする取り消し権を行使できる」と説明している。
これに対し、HRNは「裏付ける証拠を求められるため、ハードルは極めて高い」と指摘。さらに、詐欺や強迫による民法上の契約解消は、メーカーや配信先・販売先へと次々に流通してしまう映像の差し止めには有効ではないとしている。
HRNは2015年、AV出演を強要された被害者や支援者への聞き取りを実施。翌16年に公表した調査報告書によると、モデルやタレントになれるとして勧誘された若年女性たちが、AVに出演するという意識がないままプロダクションと契約後、「仕事を断れば違約金」「親にばらす」などと脅されてAV出演を余儀なくされる事例が相次いでいることが分かった。テレビ番組への出演と騙されて撮影されたという訴えもあった。
内閣府の調査(2018年度)では、モデルやアイドルなどのバイトに応募したり勧誘を受けたりした経験がある人(2569人)のうち、聞いていない・同意していない性的な行為の写真や動画撮影に応じるよう求められたことがある人は11.9%(305人)。そのうち、求められた行為に応じた経験がある人は31.8%(97人)に上った。
4月以降も、飲酒やタバコ、競馬などの公営ギャンブルは「健康被害への懸念やギャンブル依存症対策などの観点」を理由に、20歳以上という年齢制限が維持される。