地震、台風、豪雨...。日常が奪われる災害はいつ、どこでも起こり得る。
自分にとって大切な人が被災したとき、何ができるのだろうか。
被災者支援に取り組んだ人たちの体験やメッセージを集めた冊子『大切な人が被災したときに、自分にできることが見つかる本』(以下、『見つかる本』)に、そのヒントが記されている。
(※この記事には、豪雨災害の被災地の写真が含まれています)
コロナ禍で起きた豪雨災害
2020年7月の熊本豪雨では、死者67人、行方不明者2人、負傷者50人という人的被害が出た。全壊または半壊した住家は4600棟を超えた(2022年3月3日時点、熊本県危機管理防災課の統計より)。
過去の災害と異なるのは、「コロナ禍で発生した」ことだった。
当時、新型コロナの感染拡大を防ぐため、現地の災害ボランティアセンターはボランティアを県内在住者に限定。人手不足に直面し、その上感染拡大への不安を抱える中、被災者支援は手探りの状況だった。
「被災地にいた人たちの経験は、熊本にいた人だけが知っていて良い情報なんだろうか」
『見つかる本』を制作した「BRIDGE KUMAMOTO」理事の村上直子さんは、冊子の形でボランティアらの声をまとめようと考えた理由を振り返る。
「県外の方から、『現地に行きたいけどコロナで行けないから、何かできることない?』と連絡をもらうたびに、支援者の体験談を集めて発信したいという思いが強くなりました」(村上さん)
BRIDGE KUMAMOTOは2016年、熊本地震をきっかけに立ち上がった。
メンバーはクリエイティブディレクター、ドローンパイロット、ビデオグラファーなど様々で、デザインや表現活動を通じた災害復興支援に取り組んでいる。
コロナ禍の被災地で、支援者たちはどんな体験をしたのか?
BRIDGE KUMAMOTOは、熊本豪雨のボランティア221人にアンケートを実施。属性別では会社員36%、会社経営・自営業30%、学生11%、アルバイト・パート7%だった。
84%が「土砂の撤去」をしたと答えた。
困ったことを尋ねる質問では「道路渋滞」20%、「水・食事の確保」18%、「熱中症」17%の順で多く、女性ではトイレの問題が大変だったという声も多かったという。
「休憩中でもマスク着用を徹底することで熱中症の不安が増した」「(ボランティアの)経験者が現場に入れず、人手不足で作業が遅れた」といった、コロナ禍の災害で特徴的な課題も寄せられた。
アンケートでは、ボランティアで滞在中の昼食について、回答者のうち約3割が「炊き出し・現地の好意で差し入れ」があった、と答えている。
BRIDGE KUMAMOTO設立メンバーの稲田悠樹さんは、「『現地の人から食事をもらうのはけしからん』という意見をよく聞きますが、実際には多くのボランティアが地元の人から好意で受け取っています。一概に悪ではないと思うんです。災害時に伝わる情報と現場のリアルでは乖離している部分もあることを、アンケートをきっかけに考えてもらえたら」と話す。
離れていても、できることがある
被災者支援に当たったのは、現地にいる人だけではなかった。
『見つかる本』には、遠方にいても自分にできることを探し、動いた人の手記も掲載されている。
寄付金集めのため情報発信をした人、被災者に向けた応援メッセージを代読・録音して公開するプロジェクトに参加した人、東北の震災の経験を生かし、現地の支援団体へのノウハウ共有や物資輸送といった後方支援に奔走した人...。
稲田さんは、「被災地で体を動かして泥をかくこと以外にも、被災した人のためにできることはたくさんあります」と呼びかける。
ボランティアのアンケート結果や手記のほか、全国から2100万円以上の寄付を集めたプロジェクトをめぐる対談インタビューも『見つかる本』に収録した。
「コロナだけでなく、これまで人間が経験したことのないようなことが今後起きる可能性はあります」と村上さん。「それでも、コロナ × 災害のような事態を乗り越える力が人にはある。『大切な人が被災したときに、自分にできることが見つかる本』から、そんな希望を受け取ってもらえたらうれしい」と願う。
アンケート結果の詳細は、インフォグラフィックの動画にしてYouTubeで配信している。
『見つかる本』の全編は、専用サイトから閲覧できる。