「男性は男性らしく、女性は女性らしく。恋愛や結婚は異性と」
長い間、“当たり前“とされてきた価値観が、時代とともに少しずつ変わってきています。
それは桃の節句、ひな祭りも同じです。
「女雛と男雛」で飾るのが当たり前と思われている雛人形。ハフポスト日本版が調べたところ、女雛同士もしくは男雛同士のペアで買える人形店を見つかりました。
◆雛人形、同性同士でも買える
職場でひな祭りの話題になり、ふと湧いた疑問が、取材のきっかけでした。
「そういえば雛人形って、女雛同士じゃ買えないのかな」。
日本人形協会に取材すると、「雛人形の歴史は古く、当時の価値観で作られたものなので、女性と男性のセットが基本になっています。正直なところ、今の時代の流れとはまだまだ差があるかもしれません。協会としては、女雛同士、男雛同士で販売している職人は把握できていません」と教えてくれました。
そこで、同性同士の雛飾りを販売しているお店がないか、調べてみました。
まず百貨店を3店舗まわってみましたが、それぞれ「前例がありません」とのこと。ですが1店舗、見つけることができました。
さいたま市岩槻区の老舗人形店「鈴木人形」では、女雛同士や男雛同士、1体のみの注文など、性の多様性に合わせた注文を受けているといいます。
鈴木人形の3代目・鈴木慶章さん(41)は「年齢や性などを問わず、ひな祭りをみんなに楽しんでほしいという思いが根底にあります」と話します。
その思いから鈴木さんは6〜7年前、つけまつげやアイラインなどを施した「現代風雛人形」を作っています。金髪にティアラと、伝統的な雛人形とはまた違った可愛さが評判といいます。
住宅が全体的に狭くなっていることなどからくる「雛人形離れ」も背景にあった企画でしたが、今風の「かわいらしさ」に一目惚れする人が多いといい、子どもや若い世代から支持を集めています。
◆「女性だから雛人形、男性だから五月人形じゃなくて良い」
鈴木さんは「みんなにひな祭りを楽しんでほしい。そのために全力です。『みんな』にはもちろん、多様な性、LGBTQの方々も含まれています。伝統と違うことでいろんなご意見をいただくこともあるのですが、雛人形を欲しいと思った方が楽しめるのが1番大切だと思っています」と話します。
今のところ、同性同士の雛人形の注文を受けたことはないといいますが「まだ周知が足りていないだけで、欲しいと思ってくれる人はいるんじゃないかなと思っています」と続けます。
男雛同士の雛人形も依頼があれば受けるといい、「これはLGBTQの方々に限らずですが、五月人形の方が好きな女性も、雛人形の方が好きだという男性もいると思うんです。女性だから雛人形、男性だから五月人形を好きにならなければいけないということはないと思います」と続けます。
「僕自身、幼い頃から祖父や父が作っている姿を見て、雛人形が大好きになり、この仕事をしています。自分の好きなものを好きだと言える環境やきっかけは、とても大切だと思っています」
◆女雛のペア、男雛のペアで並べてみると
店頭には同性同士の雛人形がなかったため、鈴木さんに既存の雛人形でサンプルを作ってもらいました。2体の雛飾りは「親王飾り」と呼ばれるそうです。
女雛同士はこちら。雛人形は基本的には、女雛が目立つ作りになっているといい、2体が並ぶと華やかな印象です。
続いて男雛同士。落ち着いた色合いで、和やかな印象です。女雛同士とはまた違った可愛さがあります。
現代風雛人形でも、同性同士の雛飾りも作れると言います。伝統的な雛人形に比べ、現代的な化粧を施しているといい、また異なった華やかさがあります。
五人飾りにすると、よりきらびやかになります。かわいい。
時代とともに、「当たり前」が少しずつアップデートされていくー。
ひな祭りにもそれを感じることができ、嬉しく思いました。
〈取材・執筆=佐藤雄( @takeruc10 )〉