「友達に、『先生が話していた、ときめくって感情が分からないんだよね』と話したら『それは人間じゃないよ』と言われて、すごくしんどかったです」(アセクシュアルの高校3年生)
「お母さんにカミングアウトしました。やっぱりずっと娘として育ててきたから、素直に受け入れきれない気持ちもあるなと感じているので、話し合っていく必要があるのかなと思っています」(トランスジェンダー男性の高校1年生)
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ゲイである自身の経験も踏まえ、LGBTQについて発信するユーチューバーのかずえちゃん( @kazuechan1101 )が、1月25日から14日間連続で「LGBTQ学生のリアル」をテーマにしたインタビュー動画を投稿している。
中学生2人、高校生7人、専門学生1人、大学生3人、大学院生1人、計14人の等身大の思いを、5分ほどに収めたものだ。
企画のきっかけの1つが、ユーチューバーになった原点でもある「若い世代が、当時の自分のように悩まなくて良い社会を作りたい」との思い。
かずえちゃんは「子どもを取り巻く現状は、自分が学生だった20年以上前に比べると少しずつ変わってきています。でも、まだまだカミングアウトをしたいけれど怖いと打ち明けてくれる子も多い。大人たちが、そんな子の声に耳を傾けるきっかけになれば」と話す。
◆ 「親に聞かれたくないから」LINEで相談する若い世代のリアル
かずえちゃんは2016年から、YouTubeでLGBTQ当事者やアライへのインタビュー動画などを公開。チャンネル登録者は9万2000人を超えるなど、共感を呼んでいる。
「LGBTQ学生のリアル」をテーマにした動画投稿は、LINEでセクシュアリティに関する悩みの相談を受ける『にじいろtalk- talk』から「LINE相談をもっと多くの人に知ってもらいたい」と相談を受けたことから始まった。
かずえちゃんはこれまで、動画のインタビューなどで、中高生など若い世代から「親に打ち明けたら、出ていけと言われた」という声や、誰にも言えず自分1人で抱え込んでいる子が多いというリアルな現状に触れてきた。
また、近年は匿名で話せるLINEの「オープンチャット」で、悩みを相談する子が増えていると知った。「知っている人には話しにくい」、「電話だと親に聞こえてしまう」といった背景があるという。
「LINE相談」の取り組みに共感するとともに、「大人になかなか届きにくい、リアルな声を届けたい」と企画に至った。
◆ 高校生まで、誰にも言えず苦しかった経験
かずえちゃん自身の学生時代の経験も、今回の企画の背中を押したという。
福井県で生まれ育ち、小学校高学年になって「僕はみんなとは違うかもしれない」という感覚が芽生えた。周りの男の子が気になる女の子の話をするようになった一方で、自分が目で追っているのは男の子だったからだ。
それを、誰にも言えなかった。テレビでは「保毛尾田保毛男」を始め、男性を好きになる男の人は「気持ち悪い」と嘲笑される存在で、学校でも男の子同士がじゃれあっていると、先生が「お前ら、ホモか」といじっていた。「僕もバレたら笑われるし、いじめられるかもしれない。絶対に知られてはいけない」と思った。
自分がゲイであると受け入れられない中、高校生になり、周りにも男女のカップルが増えてきた。「彼女作らんの?」「もしかしてホモ?」と聞かれ、「違うよ。そんなの気持ち悪いし…」と返してしまう自分がいた。
「ゲイは治せるんじゃ…」という思いもあり、高2の時、一度だけ女の子と付き合った。大好きだったけれど、手を繋ぎたいといった感情は湧かず、友達以上の好意を抱けないことを思い知った。
「自分に魅力がないから」と自分を責めるその子を見て、申し訳なさが募った。かずえちゃんは「自分は男の子が好きだということを認めざるを得なかったです…」と振り返る。
◆ 「一人じゃない、大丈夫だよ」と伝えたい
誰にも相談できず、悩んでいたかずえちゃんを支えたのが、19歳の時にインターネットを通して生まれて初めて、ゲイの人に出会った経験だった。「僕、一人じゃなかったんだな」と、安心感が込み上げた。
また30歳で留学したカナダでは同性婚が認められており、街では当たり前に、同性カップルが手を繋いでいた。「たくさんいるし、当たり前」と知ることも支えになると実感するからこそ、動画がたくさんの学生に届いてほしいと願う。
◆ 子どもが安心してカミングアウトできる社会に
カミングアウトをしたい人が安心してできる社会にしたいと考えるかずえちゃん。14人にインタビューする中で、「誰かに打ち明けたくても、まだまだ大きなハードルや恐さがある」と実感した。
ゲイの高校3年生・たつやさんは「大人になればゲイの人が集まるお店に行けると思うけれど、今は自分のことを話せる場所がないです」と話す。
恋愛感情などを持たないアセクシュアルの高校3年生・あやかさんは「冷たいとか、心がないとか、人間らしくないと言われ、すごくつらいです」と、人を好きになることが前提である社会での生きづらさを語る。
トランスジェンダー男性の高校1年生・蒼楽(そら)さんは中学時代、卒業の間近に、信頼できる先生3人にカミングアウトしたという。蒼楽さんは「『僕』という人間を見てくれるだろうなって思い打ち明けました。一人で抱え込まず、話を聞いてもらえる人ができて心が軽くなりました」と話す。
かずえちゃんは「この人なら大丈夫だと思う人になら、カミングアウトできる。友人や周りの大人が使っている言葉を、子どもたちは本当に見ています。だからこそ正しい知識を届けたいし、気をつけてほしいです」と話す。
◆ 子どもたちの声を教育現場にも
教育現場も、教職員や子どもに向けたLGBTQに関する研修や講演が広がるなど、少しずつ変化していると感じる。
当時の担任だった先生に依頼を受け、2月3日には母校の高校で、LGBTQをテーマにした授業をすることになった。かずえちゃんは、高校生活は楽しかったが隠すことに必死だったと振り返り、「母校で自分のことを話すなんて、想像もできなかった。すっごく楽しみです」と笑顔を見せる。
少しずつ「制服の自由化」も進み始めた。嬉しく思う一方で、戸籍上の女の子がスラックスを選ぶ際、女性用に作られたものを履かないといけない学校も多く、違和感がある。「男性を自認するトランスジェンダーの子には、いわゆる『女性らしい』体型が強調されない、男の子用のスラックスも積極的に選べるようにしてほしい」と感じる。
また「性自認が女性のトランスジェンダーの子が本当に、女の子の制服を着られる社会ですか?」という思いもあり、スカートを履いて入社式に参加する動画を投稿したこともある。
「研修や制服の自由化が広がり、大きな希望を感じます。ですが取り組みを始めたことが、ゴールではないと思うんです。やっていく中で、いろんな課題が出てきます。子どもたちがより生きやすい環境を作るには、もっと社会の理解が進むことが不可欠だと感じますし、そのためには子どもの声にきちんと耳を傾ける必要がある。
だからこそ正しい知識を発信したい。子どもたちが悩みを話せる環境を整えることや、実態に伴った制度設計につながると信じているからです。子どもが悩まなくて良い社会への一歩として、まずは14人の声が、多くの人に届くことを願っています」
<執筆、取材:佐藤雄( @takeruc10 )>