「人災だ」中国政府のロックダウンで食糧難に。ジャーナリストが描き出した「ゼロコロナ」の現実

中国の徹底したゼロコロナ。この文章は、それを称賛する友人に、ある親子の物語を無言で送りつけるエピソードで締め括られる。

「ゼロコロナ」を掲げ厳格な防疫措置を取り続ける中国。ロックダウン(都市封鎖)が実施された陝西省西安市で、住民の生活をリアルに描き出したジャーナリストの文章が議論を呼んでいる。

作者はジャーナリストの江雪(こう・せつ)さん。「長安十日」と題された文章では、ロックダウンが宣告された2021年12月22日から22年1月3日までに自身が体験したことや考えたことが赤裸々に綴られ、食糧難を「本質的には人による災害だ」と指摘し、十分な医療ケアを受けられない人がいる現実を訴える。

ロックダウン下の中国・西安市。緑色の隔離壁は江雪さんの文章にも登場する
ロックダウン下の中国・西安市。緑色の隔離壁は江雪さんの文章にも登場する
VCG via Getty Images

■武漢以来、最大規模とも

西安市では、12月22日にロックダウンが公表され、23日午前0時から実施された。デルタ株が流行しているとされ、現在までの累計感染者は1800人を超える。2020年に湖北省武漢市で感染が広まって以来、最大規模の感染拡大とされている。

中国では感染例が発覚した場合に、隔離と検査を徹底する「ゼロコロナ」政策をとってきた。西安市の全人口およそ1300万人を対象に検査が課されたほか、買い出しのための外出も2日に1回とするなどの外出制限も出された。

他にも、ネズミを媒介とするハンタウイルスに感染することで起こる「腎症候性出血熱」の感染者も見つかっていた。

中国の保健当局は1月5日、感染者数は下降傾向にあると発表している。 

■「ゼロコロナ」称賛する友人に...

徹底したコロナ対策は歪みも生んでいる。西安市では1月1日、妊娠8ヶ月の女性が腹痛を訴え病院を受診しようとしたが、有効なPCR検査の結果を持っていなかったとして入り口で2時間待たされ、お腹の子が死亡した。

病院側の対応には批判が相次ぎ、地元当局は病院の責任者らに免職や停職などの処分を下した

こうしたゼロコロナ政策下の西安を描いたのがジャーナリストの江雪さんが綴った「長安十日」だ。ロックダウン当初は隠れて営業を続ける商店などもあり比較的余裕のあった食糧が、防疫対策の強化がきっかけで急激に不足していく様子などを当事者視点で記録している。 

江さんは、食糧難の原因について「事実は明確だ。本質的には人による災難だ。西安では物資不足なんて存在していない。最も必要としている人のもとに物資が届かないだけだ」と指摘している。

江さんはSNSで、ある女性の告発に心を痛める。女性の父親は心臓病の発作に倒れたが、居住地が「中リスク地区」にあったため即座に医療的ケアを受けられず、死亡したという。

江さんは「もし可能なら、彼女を抱きしめたい。そして、私たちが遭遇した困難は、記録されるべきで、無駄になるべきじゃないんだと伝えたい」と訴える。文章は、ゼロコロナ政策を称賛する友人に、この女性の事例を無言で送信するエピソードで締め括られる。

■ネット空間で議論

中国のネット空間では、江さんの文章を「武漢日記」と重ね合わせる人が多いようだ。「武漢日記」とは、作家の方方(ほう・ほう)さんが2020年に同じくロックダウン下にあった武漢の様子を綴ったもので、政府への批判も織り込まれていた。

江さんの文章には批判もある一方で、「体験しなければ分からないことが精緻に描写されている。西安のコロナ対策の真実を伝えるものだ」「本当のことを喋れる人はなかなか出てこない」など、好意的な反応も相次いでいる。

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