創業100年を超える老舗企業のコクヨ。文房具やオフィス用品などを扱う同社は今、大量生産・大量消費のサイクルとどう向き合うか、葛藤しています。
会社を変革するためのとっかかりの一つとして2021年2月に、築40年近くの自社オフィスをフルリノベーション。「THE CAMPUS」と名付けた新オフィスの「街に開いた“みんなのワーク&ライフ開放区”」というコンセプトは、企業と社会の関係性をゼロから見直すという決意のあらわれです。
この「THE CAMPUS」で12月、デッドストックや規格外品が集まる蚤の市「PASS THE BATON MARKET」が開催されました。
完璧な商品以外は「流通からはじかれる」既存のシステムを疑い、新しい消費のあり方を再考する「PASS THE BATON MARKET」。その課題意識に共感したコクヨと運営会社のスマイルズとの共催という形で実施されました。
「街に開く」をコンセプトに掲げた新オフィスでの「蚤の市」。そこには、大量生産・大量消費を再考するコクヨの葛藤と挑戦が凝縮されていました。
「新しい消費のあり方、試行錯誤しています」
まずコクヨのブースで目についたのは、ジーンズなどの廃棄衣料から作ったノートカバーやポーチなどの文房具。これらは不要になった服の多くがゴミになってしまっている現状に課題を感じた社員のアイデアが元となり、文房具の素材として生き返らせた商品です。実際に触ってみると、革のような質感で高級感もあって使いやすそうでした。
他にも滋賀のノートを作る工場で働く社員からの提案で、キャンパスノートを作る際の紙のロールやクロス材(芯に近い部分は巻きが強くて使えないそうです)がそのまま売られていたり、ノートの端材から作った額縁に自由に色をつけ、自分好みの飾りにしてもらうワークショップも行われたりしていました。
「ノートの裁断の際に出る紙の端材は年間約430トンです。これまでリサイクルに出していましたが、もっと有効活用できるのではないか、実験中です」(コクヨ担当者)
PASS THE BATON MARKETを続けるための葛藤
コクヨのオフィスでの開催は今回で3回目となったPASS THE BATON MARKET。しかし、続けるためには葛藤もあったと話すのは、コクヨ株式会社ヒューマン&カルチャー本部の久保友理恵さん。
「THE CAMPUSで共催する初めてのPASS THE BATON MARKETが終わった後、運営会社のスマイルズさんは『コクヨのTHE CAMPUSで、PASS THE BATON MARKETを根付かせたい』と言ってくださいました。本気の目をしていました」
しかし、久保さんは「一回考えさせてください」と返事をしたと言います。
「コクヨは実験が得意だけれど、継続するためには越えなければならない壁がありました。根付かせるためには、同じ船に乗る必要がある。このオフィスを街に開くときに、場所だけをお貸しする形にはならないようにしようとチームで決めていました。コクヨとしての文脈をもっと太くしないと、サステナブルに同じ船に乗れないと思ったんです」
大量生産・大量消費によってビジネスを大きくしてきた時代から、サステナブルな経営にアップデートするためのプロジェクトの一つとして位置付けられないか?そうした思いから組織やグループ会社を横断して様々な立場の人を巻き込み、PASS THE BATON MARKETに参加してもらう仕組みを作った久保さん。
「街に開く」というコンセプトを体現するPASS THE BATON MARKETの場で、自分たちが考えて作った商品や企画を、実際にお客さんに説明してフィードバックを得ることで、「社員のサステナビリティに対する感度を高め社内の機運を醸成していきたい」と久保さんは話します。
「コクヨは直営店舗がほとんどなく、商品は販売店に卸す形で届けているため、実際に使うお客様と直接お話しできる機会は多くありませんでした。PASS THE BATON MARKETとTHE CAMPUSは、コクヨがサステナブルな価値を提供し続けるために、社会と社員、両方の熱量を高める場でもあります」
「大量生産・大量消費」の社会、コクヨの答えは…
一方、コクヨも他の多くの企業と同じように、大量生産、大量消費のモデルです。これからの消費のあり方についてどう考えているのか聞くと、「正直、答えはまだ出ていません」と率直に答えました。
「コクヨは2月に長期ビジョンを発表し、今はサステナブルな経営へシフトしていく過渡期です。試行錯誤の途中ですが、THE CAMPUSで様々な企業とコラボレーションしながら、これからも“実験”を続けていきたいと思っています」(久保さん)
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PASS THE BATON MARKETには、無印良品やファミリアをはじめ、50以上の企業やブランドがデッドストックや規格外品を通して「新しい消費のあり方」と向き合っていました。
会場の様子はこちらの記事でご覧ください。