本土では初めて新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が見つかった中国だが、従来の感染対策に自信を見せるような言説がメディアなどに登場している。
なかには「中国のやり方が正しかったと世界が徐々に理解した」などと海外との比較を論じるものもあり、共産党が主導する中国のコロナ対策が優れていると国内にアピールする狙いがあるとみられる。
■『中国の治』と『西方の乱』
中国ではこれまでに香港で複数例、オミクロン株の感染例が出ていた。本土では報告されていなかったが、12月13日には天津市で、14日には広東省広州市でそれぞれ輸入事例が報告された。
中国では2019年末から新型コロナの感染拡大が明らかになり、徹底した検査や隔離などを組み合わせた「ゼロコロナ」対策で抑え込んできた。その後も「デルタ株」が多くの都市で猛威をふるうなどしたが厳格な方針を継続してきた。
そこに登場したのがオミクロン株だ。中国としては来年2月に北京の冬季五輪を控えることもあり、感染拡大をくい止めたいところ。一方で、本土への流入前から「自信」をのぞかせるような言説が専門家やメディアから発せられるようになった。
例えば、感染症専門家で中国工程院院士の鍾南山(しょう・なんざん)氏だ。鍾氏は2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行した際にも対応にあたったことで知られ、新型コロナも流行当初から存在感を発揮。国民的な知名度を持つ。
ここ数日、中国メディアは鍾氏のオミクロン株への見方を伝えているが、強気なものもある。例えば12月11日に広州市で開かれた「大湾区科学フォーラム」では「オミクロン株は新たな問題を引き起こした。多くの国家が重要視し、厳格な措置を講じている。これはここ2年の実践において、中国のやり方が正しかったと、世界が徐々に理解したことを説明している」と話している。
その上でコロナ対策には、ワクチン接種率を上げて集団免疫を獲得することや治療薬の活用、それに国際社会が協調することなどが重要だと指摘した。
こうした論調はほかにも見られる。その多くが、一定程度の経済活動を続けながら感染を抑えていく「ウィズコロナ」と比較することで中国の優位性を論じるものだ。
例えばタカ派な言説で知られる「環球時報」は、シンガポールの中国語新聞の記事を転載。日本や欧米の国々が新規入国を厳しく制限するなどの方針に転じた場合、「中国のゼロコロナを持続不能で不正確だと責めることはできなくなる」とする専門家の意見を紹介した。
さらに国営新華社は「オミクロン株は中国の防疫政策の合理性を再び証明した」と題する文章を掲載し、「新型コロナ発生以降、『中国の治』と『西方の乱』の対比が鮮明になっている」などとした。
共産党が主導する中国のコロナ対策が、海外と比べて優れていると国内にアピールする狙いがあるとみられる。