事件事故の被害者や元受刑者、支援者ら7人が11月、「犯罪に巻き込まれた人々の支援(仮称)」を発足した。
「被害者はかわいそう、加害者は悪者」といった画一的なステレオタイプを緩和し、双方が垣根なく生きやすい社会作りを目指して活動する。
当面は死刑制度の廃止や被害者と加害者の対話の場の設置のほか、加害者家族へのメディアスクラム対応にも力を入れていく。
団体は、11月27日に発足。12月14日、東京地方裁判所で発足の狙いや活動内容について、記者会見を行った。
団体の発起人で、加害者家族支援団体「World Open Heart」の理事長を務める阿部恭子さんは、団体発足の経緯について、「加害者と被害者を分けることなく、犯罪で傷ついた全ての人が尊厳を持って生きられる社会にしていきたい」と説明。
今後は、「被害者と加害者、双方がいきやすい社会作り」を軸に、死刑制度の廃止に向けた活動や犯罪で傷ついた人への情報提供、支援金などの援助を行う。共同代表の7人はそれぞれ、個々の団体の活動を続けつつ、連携して支援の充実を目指すという。
加害者と被害者の人権の重さ、比べるものじゃない
宗教の立場から支援する「イエズス会社会司牧センター」の柳川朋毅さんは、「事件事故が起きると、被害者と加害者、どっちの人権が大切か比べたがる人が多い。だがどっちの人生も大切」と強調。
「個々人が起こした犯罪行為だと終わらせるのではなく、社会や福祉の領域の不作為があると考えることも大切。例えば電車内で多発する殺傷事件は『拡大自殺』とも捉えられる。行政や司法が、何をやってこなかったのかを見つめ、改善していきたい」と話す。
加害者を救った、被害者との対話
被害者と加害者の対話の場作りにも力を入れる。
受刑者の社会復帰を支援する団体「マザーハウス」の五十嵐弘志理事長は、「加害者と被害者はどうしても、対立関係が生まれてしまう。だけれど、対話をすることで、少しずつ互いが生きやすくなっていけると思う」と狙いを話す。
そう考える背景には、自分自身が前科3犯、受刑歴20年の元受刑者ということも大きい。
出所後、結婚して子どもが生まれる中で、自分のやってきたことを何度も思い返し、「俺って幸せになっても良いのかな」と苦しんだ。
そんなとき、家族を失った別の遺族に「自分のしたことを忘れないでください。(その上で)幸せになってください」と言われ、救われた。
加害者には厳しい眼差しばかりが向けられがちだが、自分の行為に向き合った上で「生きている人間、誰もが対話をして、幸せになる権利はある。対話の場を作り、溝を埋めたい」と話す。
加害と被害問わず、包括的な支援必要
阿部さんはこれまで、池袋暴走事故や野田小4女児虐待事件の当事者支援にも携わり、加害者家族らへの偏見や支援体制の不足を感じているという。
「加害者が謝りにこないと怒り、加害者家族の家に被害者が行くということが起きていると知った」
「日本の殺人事件の半分は家族間で起きている。半分は遺族で、半分は(被害者や加害者の)家族でもある。小さい地域ならともに生活していかないといけないという現実もある」
「事件事故後のメディアスクラムについて、加害者や被害者、被害者家族は弁護人がつくが、加害者家族には制度が足りていない」
これまで見てきた経験を話した上で、「傷ついた人を包括的にケアする仕組みが必要。理想論ではなく、現実として起きている問題の解決に力を入れたい」と話す。
団体のキックオフイベントとして、2月5日午後2時に東京都の聖イグナチオ教会で、被害者と加害者の対話をテーマにしたシンポジウムを実施する。