第37代アメリカ大統領のリチャード・ニクソン氏が箸を持ち困惑している(?)ように見える写真がTwitterで話題だ。
隣に座るのは当時の中国の要人。この写真は、アメリカと中国の歴史的な雪解けのきっかけとなった「ニクソン訪中(1972年)」の一幕を捉えたものだ。世界中の注目を集めたこともあり、中華料理をアメリカに広めたきっかけになったという指摘もある。
■2枚の写真
Twitterユーザーが「ニクソン絶対困っている」と投稿したのは次の写真だ。ハフポストが使用ライセンスを得ているGetty Imagesに同じものがあるため紹介しよう。
中央に座るニクソン大統領。右手で箸を持ち、視線は料理の並ぶテーブルに向けられている。大統領を挟むように座り、楽々と料理をつかむ2人の中国人とは対照的で、箸の使い方が分からず困惑しているように見えないこともない。
Twitterでは「(中国側の)2人は料理をとりわけているのでは」「これがニクソン・ショックか」などの反響が相次いだ。
この写真の撮影者は「Bettmann」氏。撮影状況を記すキャプションによると、画面左の中国人男性は、当時の周恩来(しゅう・おんらい)首相で、右側は張春橋(ちょう・しゅんきょう)氏。毛沢東の権威のもと文化大革命を推進した「四人組」の一人だ。
このキャプションから読み取れる情報はここまでだが、実は同じ人物が撮影した別の写真がある。これだ。
ニクソン大統領が箸を使いこなして料理を口に運ぶ瞬間が記録されている。白黒ではあるが、背景と構図からして上の写真と同じタイミングで撮られたものと考えて良いだろう。
この写真には撮影日と場所も記録されている。1972年2月27日の上海市だ。
1972年2月21日から28日まで、ニクソン大統領は中国を訪問していた。世界史の教科書に出てくる「ニクソン訪中」だ。大統領は中国の指導者・毛沢東らと会談し、最終日の28日に「米中共同声明(上海コミュニケ)」を出す。米中の雪解けはここから本格化し、1979年には国交正常化が実現する。
この写真は、その歴史的な声明が出される前夜に撮影されたものなのだ。
■中華料理への意識を変える
世界中から注目されていたニクソン訪中だが、イギリスのガーディアンは「政治と食」というコラムの中で、同じ写真を紹介しながら、ある副次的な作用を指摘している。「箸の外交は、意図せずしてアメリカ人の味覚を刺激することになった。ニクソンと毛沢東が会談してから、点心や北京ダックに夢中になる人が現れた」。
同様の指摘はBBCにも見られる。写真のものとは別だが、訪中時に北京で行われた晩餐会はテレビ中継され、「何百万人ものアメリカ人が、大統領が箸を使い、聞いたこともないような料理を口にする姿を目の当たりにした」と指摘。中華料理がアメリカ人の意識に浸透する出来事だったと紹介している。
この写真は、歴史的な政治イベントの裏で、食への意識が変わっていく瞬間をも捉えていたのかもしれない。